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骨髄移植をすくえ
医療を救う患者主導の活動
田中祐次(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門特任助教)

2009/02/03

 昨年12月20日付の読売新聞で、米バクスター社製の医療器具の不足により今年の3月以降に日本では骨髄移植を受けられない可能性が報じられた。

 報道に前後して、日本造血細胞移植学会は今後の対応等を相次いで報告。学会が検討している当面の方策は、保険のきかない他社製の器具を個人輸入して使用することである。

 しかし、個人輸入、混合診療、そして莫大な費用負担等、クリアすべき問題は複雑かつ困難を極める。その点について学会から具体的な解決策が示されることもなく、患者や家族の方々はいまだ不安を抱いている。

 この事態を受け、いち早く動いたのは全国骨髄バンク推進連絡協議会だった。正確な情報提供と費用負担の軽減を求める署名活動が、年明けから、患者主導で始まったのである。

 以下、この一連の動きについて詳細を振り返る。今月末までとなっている署名活動について、少しでも多くの読者の皆さんにご理解ご協力いただければ幸いである。

【骨髄移植の1ヶ月前には確保が必要】

 今回、不足が予想されているのは、「ボーンマロウコレクションキット」という骨髄移植に必須の医療器具である。骨髄提供者から骨髄を採取する際に使用する。

 骨髄移植は、白血病細胞の根絶を目的として大量に抗がん剤治療や放射線治療を受けた患者さんに行われる。抗がん剤治療や放射線治療では、白血病細胞と同時にどうしても正常な造血機能まで破壊されてしまうため、正常造血の回復に健常な骨髄の移植が必要となるのである。

 骨髄提供者は、骨髄移植日の数ヶ月前から適正検査として身体検査、血液検査、レントゲン検査などを受ける。また、骨髄採取時には骨髄とともに約1リットル近い血液が失われるため、輸血が行われる。

 提供者は健常者であることから、骨髄採取手術時の出血に対してはできる限り自分の血(自己血)が使われる。自己血の貯血は、骨髄採取手術日の3週間前から病院で開始される。

 その事情を踏まえると、骨髄移植を行おうとする日の少なくとも1ヶ月前までに今回不足が予想される骨髄採取キットが確保されていなければ、骨髄移植は成立しない。

【2月中にも枯渇、代替品には莫大な費用負担】

 今回の不足問題は米バクスター社内部の経営問題に端を発し、結果、同社はこの器具の製造部門を2007年3月に投資グループへ売却し、米国内の工場も閉鎖した。器具の製造はドミニカ工場に引き継がれたものの、そこでの品質・安全確認が遅れ、工場の稼働開始が3月以降にずれ込んだ。

 日本では骨髄採取キットとして、バクスター社製の「ボーンマロウコレクションキット」のみ使用が許可されているため、今回の工場移転に伴って製品の供給不足が生じたものである。

 国内では読売新聞の発表に合わせて、日本造血細胞移植学会から報告があった。12月29日には器具の在庫数に関して報告があり、年度内の器具不足が現実的となった。それによれば、今年の1月からバクスター社からの供給可能な器具の数は計185個、国内の病院に残っている在庫が計308個、合計493個であった。

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