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NEJM誌から
WHOのチェックリストで手術の合併症が36%減少
世界8カ国でのパイロット研究の結果

 外科手術合併症は患者に苦痛をもたらし、コスト上昇を招く。そこで、米国ハーバード大学公衆衛生学部のAlex B. Haynes氏らは、WHOが作製したSurgical Safety Checklistを世界8カ国の病院で試験的に用いる前向き研究を行い、チェックリスト導入により、合併症が36%減少し、死亡も有意に少なくなることを明らかにした。詳細は、NEJM誌2009年1月29日号に報告された。

 全世界で、1年間に約2億3400万件の手術が行われている。合併症は少なからず見られるが、約半数は予防可能といわれる。

 手術の合併症は世界的な公衆衛生の観点からも問題だと考えたWHOは、2008年に、手術を受ける患者の安全を確保するためのガイドラインを発表した。その中核となるのが、Surgical Safety Checklist(1st edition)だ。

 19項目からなるこのチェックリストは、「治療に関わる医療従事者間のコミュニケーションを改善し、ケアの一貫性を高めれば合併症は減る」という前提の下に、世界の様々な地域で適用可能という条件を満たすべく、WHOが作製した。

 著者らは今回、このチェックリストを用いることで実際に合併症を減らせるかどうかを、様々な環境下にある病院で検証するパイロット研究を行った。

 チェックリストは下記の項目からなる(こちらから入手できる)。なお、WHOは、それぞれの国、施設ごとに修飾を加えて、より適したリストを作製するよう促している。

<麻酔開始前>
手術チームのメンバーは(少なくとも看護師と麻酔専門医は)、口頭で以下を確認する。

1)患者自身が、手術を受けるのは自分であること、手術に同意していることを認めており、手術の部位と術式を認識している
2)手術部位がマーキングされている、またはマーキングは適用なし
3)麻酔の安全性に関するチェックが完了している
4)パルスオキシメーターが患者に装着されており作動している
5)チームのメンバー全員が、患者に何らかのアレルギーの既往があるかどうかを承知している
6)患者の気道の状態と誤嚥のリスクを評価し、必要であれば適切な機器と支援の準備を行う
7)500mL以上(小児では体重1kg当たり7mL以上)の出血が予想される場合には、末梢静脈ルートの確保と輸液の準備を行う

<皮膚切開前>
チーム全員(看護師、外科医、麻酔医と、治療に関わるそれ以外のスタッフ)は口頭で以下を確認する。

8)メンバー全員の名前と役割
9)患者の本人確認と手術部位、術式
10)外科医は、重要な、または、予想外の処置としてどんなものが考えられるか、手術に要する時間、予想される失血について再検討する
11)麻酔スタッフはその患者に特異的な不安材料がないか再考する
12)看護師は、滅菌状態や使用する器具の準備など、懸念される事柄について再度確認する
13)予防的な抗菌薬投与が切開前60分以内に行われたか、または、抗菌薬の投与は指示されていないか
14)患者本人に由来する、手術に欠かせない画像情報のすべてが手術室に掲示されているか

<患者が手術室を出る前>
看護師は、声に出してチームと共に以下を確認する

15)記録された術式の名前
16)針、スポンジ、器具の数は揃っているか(または使用されなかったか)
17)標本(採取された場合)のラベルは正確に記入されているか(患者の名前を含む)
18)機材に処置が必要な問題があるか

外科医、看護師、麻酔医は、
19)患者の回復とケアに関わる重要な懸念事項について確認し合う

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