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仙台医療事故調説明会傍聴記
あまりにも予想通り 怒るより萎える
川口恭(ロハス・メディカル発行人)

2009/02/03

 この冬、厚労省が医療事故調第三次試案大綱案について各地で説明会をやっている。(拙ブログでは2回ケナした。(1)(2))1月25日の日曜日には、東北地方と小松秀樹先生に依頼しておきながらキャンセルした中国・四国地方の2ヵ所で開かれた。

 で、ケナしておいて何だが東北の説明会を覗きに行った。大野病院事件の福島県を管内に抱えて覚悟のほどが違うのか、パネリストのメンツが豪華だった。

 ただし、各医療機関の医療安全担当者向けワークショップの一部として企画されたため、コーディネーターによれば聴衆の9割が医療者だという。その意味では、国民に対する説明というよりは医療者に対する説明色が濃いようで、これはどこの地方でも似たようなものらしい。

 パネリストをプレゼン順に記すと

深田修・厚労省医政局総務課長(佐原医療安全推進室長の上司)
田林晄一・東北大教授(モデル事業・宮城県地域代表)
今明秀・八戸市民病院救命救急センター所長
嘉山孝正・山形大医学部長
永井裕之・医療の良心を守る市民の会代表(広尾病院事件被害者遺族)

 の5人。深田、嘉山、永井の3人に関しては他の地域からお呼びがかかってもおかしくない全国版の人たちで、これだけのメンツが揃えば、単に検討会の内容を要約して繰り返すのではなく、実体のある議論になるんではないか、と期待した。

 しかしながら結論から先に言えば、この段階で説明会なんてやるだけ無駄というか、軋轢を増すだけじゃないかと以前していた予測がイヤになるほど的中してしまった。東北厚生局の担当者は大変意欲的に取り組んだのだと思う。そこは評価する。

 それでも、やはり「医療者」と「医療被害者」との対立を先鋭化させただけで、税金の間違った使い方と言わざるを得ない。やらない方がマシだったと思う。検討会とは違った発見があったかなと思ったのは、わずかに2つ。

その1

 深田課長がプレゼンの最後に「法が成立した暁(現下の政治情勢では絶対に成立しないんだが)には3年程度の移行準備期間が必要であろうと考えている。1年目は現在10ヵ所のモデル事業を続け、2年目、3年目と徐々に実施地域を拡大していく」と明らかにした。

 あまりに労力がかかり過ぎて掛け声倒れになっているモデル事業。その延長線上に医療事故調を位置づけるしかないということのようだ。そういう思惑があってのことか、実はこの日に気づいたことなのだが、昨年8月に岡山、10月に宮城でモデル事業が新たに立ち上がっていたらしい。

 ただし当然のように両県とも実施が1件もなく事業だけある。だから実は田林教授は、壇上にいるけれど自分の体験として語るべき内容を何も持っていない。

 モデル事業の延長線上に位置づけるんであれば、当然のことながらその総括は欠かせないはずで、それもしないで地方説明会を開いてもまったくナンセンスだ。実際には昨年11月の第17回検討会でモデル事業に関与した方々がどれだけ苦労しているか、かなり詳しくヒアリングしたのだから、そこを議論の出発点にしないと訳分からん。

その2

 今所長。緊張していたのか、大事なところを読み飛ばしたりもしたが、そのプレゼン資料は実に分かりやすく、医療事故調の議論を巡る1つの本質をとらまえていると思った。

 なお、コーディネーターを河北新報の記者がしていた。検討会の前田座長かと思うくらい、パネリストたちの共通項をくくって話をまとめようとしていた。申し訳ないが、この問題についてどの程度の知識があったのだろうか。

 過去17回も検討会をやって、なおこの状況なんだし、民主党案も別にあるのだ。検討会の議事録を読んでからコーディネートしていれば、「なぜこんなに話が噛み合わないのか」という司会進行をできたはずで、そうであれば逆に接点ができたかもしれないのにと思う。

 どんな議論が行われたのか、ディスカッション部から再現する。

大江(コーディネーター)
「総論としては医療側、患者、住民サイド、誰も反対する立場の人はいない。しかし第三次試案や大綱案を個別具体的に見ていくと、ここはどうなんだろうという話や、あるいはここがもっと良くなるというのがあるんだろう。今後医療安全調査委員会を立ち上げていくうえで、この点だけは強調しておきたいということがあれば。まず嘉山先生から」

 この冒頭の発言を聞いただけで、ああこの人は経過を何も知らないんだと思った。本当に検討会の最初から、総論では誰も反対していないけれど各論では全く一致しないという同床異夢が2年続いているのに。厚労省から適当にレクチャーを受けて、分かった気になったのだろう。繰り返しになるが、直近3回だけでも議事録を読んでおけばよかったのに。

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