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病棟のモジュール化
近森正昭(近森会グループ近森病院腎代謝センター 臨床工学部部長)

2009/02/25

ちかもり まさあき氏○1977年関西医大卒業。東京女子医大腎臓病総合医療センターを経て、1984年より現職。

●はじめに

 リハ専門医がいなかった80代にPTは訓練室で診断、治療を一人でこなしていました。管理栄養士は最近まで医師とは別に、栄養科の中にこもって計算していました。高い技能を持つ専門職でしたが、医師とは独立して働いていたのです。

 80年代の診断技術の発展、90年代の治療技術の進歩で地方まで高度な医療が普及していきました。80年代の開心術では術後は数日人工呼吸をしていましたが、現在は手術室で抜管し、翌日には食事が開始されますから、地方の民間病院でも90年代からオフポンプ冠動脈バイパス手術がおこなわれるようになりました。

 医療の高度化は対象とする患者の重症度を高くしますから、人手が多く必要になり、質を高めるためにチーム医療が必要になってきます。VHJグループのうち循環器を中心に救急応需をおこなっている12病院の、07年100床当り職員数は276名から141名で平均202名です。

 年間救急受け入れ患者数が9,894名から4,116名で平均5,775名ですから、業務量を考えると職員数を増やしていなければ救急を応需出来ません。看護基準がありますから看護職は救急とは関係なく一定数になっていて、増えている職種はリハ、栄養、薬剤、臨床工学技士などの医療技術職です。

 21世紀になって救急搬送される患者の高齢化が進み、臓器不全の患者も増加しています。診療行為や処置の業務量が増え、低栄養、骨格筋の減少、代謝障害のある患者に対し、栄養療法やリハビリが必要で、全てが人手でおこなわれる医療では、病床当りの職員数を増やし、チーム医療で労働生産性を向上させないと対応出来なくなっています。
 近森病院の65歳以上入院患者比率は関心術を始めた2000年に60.38%で、NSTを導入した04年が74.7%と上昇が見られ、急速に進行する高齢化が改革の背景にあります。

●モジュール化

 モジュールとは構成物アーキテクチャーの単位として機能する集合体です。半自律的なサブシステムで他のサブシステムと一定のルールで互いに連結することにより、より複雑なシステムを構成するものです。

 半自律的なサブシステムに分解することをモジュール化1)といい、連結ルールの下で独立に設計されるサブシステムを統合して複雑なシステムを構成することをモジュラリティーといいます。

 モジュール化の変化には分離、交換、追加、削除、抽出、転用の6作業があります。病棟業務のモジュールとして現在の日本で確立しているものに、入院担当看護師、服薬指導、リハチーム、NST、非医療職では患者搬送、清掃などがあります。

 病棟業務の大部分を看護師がおこなっている急性期大型6病院7病棟でおこなわれた1分間タイムスタディー2)では、療養上の世話が43.1%で最も多く、次が記録・連絡・報告・研修など33.3%、専門的看護は22.6%でした。

 看護師がおこなってきた病棟の業務を「日常的な業務」、入院など「突発的な業務」、「専門的な業務」、繰り返しおこなう「単純な業務」などにモジュール化します。専門的な業務の切り分けとして、リハチームは早期離床、歩行訓練など、NSTは栄養管理、摂食訓練を分担します。

●IT化によるパラダイムシフト3)

 IT化は大量のデータ処理や事務処理を効率化させることで医療にも影響を与えており、事務的な仕事が減少する一方で、高度な教育を受け抽象思考が必要な仕事をする医師、看護師の生産性が向上しています。個別制の高いそれぞれの患者をケアするため、医療には人手を要する労働が多くあります。技能程度は低いのですが、その場で臨機応変に対処しなくてはいけないため、IT化で代替出来ません。

 療養上の世話の多くが、こういった技能程度の低い人手を要する労働で、仮に「繰り返し単純労働」としておきます。患者の入浴では全身の皮膚を観察し、温熱による循環動態の変化観察やフットケア、スキンケアがおこなわれますが、繰り返し単純労働です。評価や診断を伴うために、病棟では看護師がおこなってきました。

 1998年の大幅薬価削減から始まった診療報酬のマイナス改定は、増え続ける療養上の世話に看護師を張り付けることをできなくしていきます。VHJグループは医療技術職と事務職、助手を病棟の業務に組み込んで対応しました。

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