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明日の臨床研修制度を考えるシンポジウムで感じた2つの違和感
背筋が凍った東大医学生の「いい医師とは」のキーワード
高月清司(IMK高月(株)代表取締役、公認医業経営コンサルタント)

2009/02/13

こうづき きよし氏○1977年慶應大学商学部卒。国内外において会社勤めの後、東京海上勤務を経て医師賠償責任保険を専門とした代理店・IMK高月として独立。現在公認医業経営コンサルタントとして、病院や勤務医向けの医療訴訟防止に向けて活動中。

 2月4日の夜、千葉県鴨川市にある亀田総合病院で行われた掲題シンポジウムに参加した。私が担当する医療訴訟でも研修医の関わる医療事故が増えており、仕事上でも危機感があったし、患者の1人としても大変興味があったからだ。

 報道陣も含め100名近い人数で会場は立ち見も出たほどのにぎわいだったが、いわゆる医療従事者が大半で、私のような非医療従事者はごく少数。まぁ、これはいつものことなのでだいぶ慣れてもきたし、今回のシンポの内容は大変充実していて、とても意義のある研修会であったことは間違いないのだが、内容とは離れた別の所で2つの「違和感」が最後まで消えなかったので、あえてお伝えしたい。

 1つ目の違和感は、シンポの先陣を切って行われた東大医学部学生諸氏による発表の内容だった。

 冒頭、司会の方から「飛び入りでどうしても発表したいとご要望がありましたので…」とのお断りがあって、10分間の発表が始まった。すぐに始まる予定だった土屋先生の講演資料に目を通していた私は、彼らの発表の題名も聞き洩らしたし、結局何が言いたかったのかもよく把握できなかったが、その中で「いいお医者さんとは、うまい、つよい、えらいの3つの言葉で言い表される」といっているようだった。

 この言葉に「えっ?」と思って目を資料から正面の画像に移すと、そこには「3人の英雄」と称される高名な医師の方々のお名前があり、彼ら学生諸氏はこの医師の方々に「直撃インタビュー」を行って、そこから得た「いい医師」のイメージとして、この3つのキーワードを上げているようだった。

 私の頭に浮かんだ最初の感想は、「うそだろう?」だった。なぜなら、私が医療訴訟の現場で感じていた、必ずといっていいくらい患者とトラブる医師のイメージも、実にこの3つのキーワード、すなわち「うまい、つよい、えらい」の言葉で言い表すことのできる医師像だからだ。

 患者とトラブるという意味は、患者の主張と相容れないという意味だが、自分を「うまい、つよい、えらい」と思っている医師は、どうしても自己主張を一方的に行ってしまう傾向があり、最後まで患者の視点や争点に合わすことが出来ない。患者側はそこから「傲慢」とか「利己的」というイメージを固めてしまい、結局お互いが何も得ることがないまま離れ離れになってしまうのだ。

 こうした類(たぐい)の医師は、上司という肩書を持つと急に増殖し始める傾向があるようだが、それを医学生の頃から感じてしまう、あるいは目標にしてしまうとしたら、末恐ろしい気がして背筋が凍る思いがしてしまった。

 さらに悪いことに、この3つのキーワードは弁護士業界にも言えるような気がする。「うまく話して、つよく戦い、相手からお金をいっぱい取ってえらくなってやろう」とする弁護士が、こうした医療側と訴訟の現場で戦い始めると仮想したら、ますます患者の居場所はなくなってしまうではないか、というのが私の不安だ。

 では、どういう医師が「いい医師か?」と問われたら、私は即座に「患者にやさしいお医者さん」だと答えたい。シンポの意見交換コーナーでも「研修教育にも愛を!」と発言されていた現場の医師の方がいらしたが、私も大賛成。

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