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処罰だけで医療事故はなくならない
医師の適性審査と自律処分制度を導入せよ
小松秀樹(虎の門病院泌尿器科)

2009/03/10

こまつ ひでき氏○1974年東大医学部卒業。虎の門病院泌尿器科部長。著書に『医療崩壊「立ち去り型サボタージュ」とは何か』『医療の限界』がある。

 ※本稿は、『中央公論』2009年3月号にも掲載されています。

 厚生労働省は、医療版の事故調査委員会である「医療安全調査委員会設置法案(仮称)」の大綱案を2008年、発表した。この大綱案では 事故の疑いがあるものを含む広範な死亡例の報告が義務付けられ、しかも、調査報告書が行政処分や刑事処分に利用される。

 これに対し、現場の医師から、医療安全のための調査と医師の処分は分離すべきだとする反対論が強まった1。医師の処分については、議論の蓄積が少ない。広範な議論を行う必要がある。

 私はかねてより、日本の医療再生のためには、医師の団体が医療の質保証に本気で取り組むこと、特に、その一環として、医師の適性審査と自律処分制度を確立することが必須の条件であると主張してきた2,3,4。

 自律処分制度は、医師、研究者らが参加する医療の質・安全戦略研究会議(厚生労働省の資金による)の主要なテーマの一つである。法制度については相当量の情報が収集された。しかし、患者側にどのように評価されているのか、医師にどのように評価されているのか、弊害を含めて医療にどのような影響を与えているのかなどについては、これまで情報を得ようとしてこなかった。

 私は、この会議で、具体的な制度の枠組みを提案した。日本の現状を出発点にして、可能な限り立法措置を必要としない制度とした。従来の処分制度はそのまま存続させ、それに自律処分を加える形とした。

●国によって異なる自律処分制度

 自律処分として、日本の多くの医師がイメージしているのは、イギリスの総合医療評議会General Medical CouncilGMC)であろう5,6。イギリスでは、GMCが医師の登録を担当しており、医師として活動するには、GMCに加入しなければならない。GMCは医師の年会費で運営される。卒前、卒後教育、登録、医師の適性審査と処分を責務としている。処分の目的は、患者保護とされる。医療従事者や患者からの苦情を受けて、医師の適性審査を行う。その結果によって、戒告、免許の制限、停止、取り消しなどの処分を科す。

 医師の処分制度は、国によって大きく異なる。金沢大学の野村英樹氏は、医療の質・安全戦略会議に提出した資料において、医師の質保証の制度設計を、規範設定、医籍登録、調査、懲戒の役割分担から以下の4つに分類した。

1 単一の専門職組織

 イギリスではGMCが担当。

2 複数の専門職組織

 ニュージーランドではニュージーランド医療評議会が規範設定と登録、専門職行動調査委員会が調査、医療専門職裁判所が懲戒を担当。

3 行政組織、専門職組織に分散

 オランダでは教育機関が規範の設定、保健福祉スポーツ省専門職医療従事者中央情報センターが免許・登録、苦情委員会が調査、医療懲戒臨床医会が設置する懲罰審議会とオランダ医療監察局が懲戒を担当。

4 行政組織

 ノルウェーでは中央政府による一括担当(国立医療法規監督署)。

 制度はそれぞれの国で時々の状況に応じて、歴史的に形成される。ヨーロッパで統一されていないのは、どの国の制度にも利点、欠点があるからだろう。

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