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厚労省が臨床研修制度改定のパブコメ募集中
地域医療と医師教育の崩壊を尻目に進む厚労官僚の思惑
上昌広(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門准教授)

2009/04/01

かみ まさひろ氏○1993年東大医学部卒業。99年東大大学院医学系研究科修了。虎の門病院、国立がんセンター中央病院を経て2005年10月より現職。

 ※今回の記事は村上龍氏が編集長を務めるJMM (Japan Mail Media)3月25日発行の記事(第27回 地域医療と医師教育の崩壊を尻目に進む厚労官僚の思惑―厚労省が臨床研修制度改定のパブコメ募集中)をMRIC用に改訂し転載させていただきました。

 去る3月19日、厚労省が臨床研修制度改定に関するパブコメ募集を開始しました。期限は4月17日までです。

【一番の問題は、国民の不在】

 私はこれまで、平成16年度に導入された新臨床研修制度について問題を指摘し、同時に、今回の改定方針にも異議を唱えてきました(2月25日号「臨床研修制度をめぐる医系技官の思惑」3月11日号「諸悪の根源は『医療費亡国論』」)。

 特に今回の改定は、今年2月5日、森喜朗元総理や宮路和明議員が率いる自民党議員連盟「臨床研修制度を考える会」(昨年9月発足)から、昨今の医療崩壊の現実と、それが新制度に端を発しているのではないかという疑問を突きつけられ、厚労省がようやく重い腰を上げたものです。しかしながら、それでもなお、問題が解決へ向かっているとは思えません。

 特に恐ろしいのは、研修医一人ひとりの「居住、移転及び職業選択の自由」に国家が介入しようかという重大な問題について、結局、全て厚労省の独断で決めようとしていることです。過言を恐れず言うならば、まるで徴兵制を実現しようという、国家の根幹を揺るがす事態にも関わらず、選挙によって選ばれ、国民の信託を受けた国会では、まともに議論されていないのです。

 ちなみに自民党議員連盟「臨床研修制度を考える会」は国会の組織ではないので国会審議ではありません。しかも、彼らが打ち出した提言内容は、厚労省が取りまとめた「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」「医道審議会医師分科会医師臨床研修部会」と同じでした。

 そして結局、森元総理が当初打ち出した「2年を1年に短縮する」方針は、「必修科目を12ヶ月とする」こととし、2年の官僚の規制権限は維持する方針へと、骨抜きにされたように見えます。自民党議員と厚労官僚の間で、一体どんな取り引きが行われたのか……真相は藪の中です。

 いずれにしても、国会で審議されていなくても厚労省の理屈に従えば、きっと「審議会で議論した」と言うのでしょう。しかし、審議会メンバーの人事権を官僚が握り、審議会が官僚の隠れ蓑となっていることは公然の秘密です。

 審議会を傍聴した医学生は、医療専門サイトであるソネットエムスリーのインタビューに次のように答えています。「配布資料には、医師の計画配置の記載があるものの、検討会では議論にはならなかった。それなのに、会議後の報道陣による厚労省担当者への取材では、この計画配置に質問が集中。検討会ではなく、このやり取りで物事が決まるのかと、びっくりした」。「審議会でも、検討会と同じ議論が繰り返され、都道府県別の上限についてはほとんど議論されていない」

 以下、新臨床研修制度導入の経緯について、これまでに指摘してきた問題点をもう一度確認したうえで、最後にパブコメ募集中である厚労省案の問題点を指摘し、提言を行いたいと思います。

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