医師と医療を巡る都市伝説のいくつかを、公開されている統計データによって検証して行こうという連載の2回目です。引き続き、どうかお付き合い下さい。
今回は「研修医は都会の病院に集中した」、つまり臨床研修制度の影響で研修医が都会の病院に集中したというウワサを検討します。
このウワサにはたいてい続きがあります。研修医が大学病院を離れて都会の研修病院を選択したため、大学病院が医師不足となり、医局が地域の中堅医師を引き上げ、それによって地域医療の崩壊が引き起こされた、という具合に続きます。
ところで、日本の郡部(町村)の人口が近年激減したことをご存知でしょうか?平成17年(2005年10月1日付)の国勢調査では、町村の数が「町村についてみると,合併,編入等により平成12年時点の2,558から17年時点の1,466へと1,092の減少となった。」と指摘されています。
平成17年国勢調査 全国・都道府県・市区町村別人口(要計表による人口)結果の概要 III 市町村の人口(総務省 統計局)
当然のことながら、これによって郡部人口は激減し、平成12年の27,060,554人から平成17年には17,503,670人へとおよそ950万人、35%も減少しました。わずか5年のうちに郡部人口の三分の一が雪崩を打って都市部へ…ではなく、居ながらにして町村から市へと統計上の居を移す結果となりました。総人口に占める割合も21.3%から13.7%へと低下しました。市部人口はそれだけ割合を高めたということになります。
(図3)
では、年齢別に医師の働いている病院(従業地)がどのように推移してきているのかを見てみます。検討に当たっては、前回同様、隔年(2年に一度)12月31日付で医師法の名の下に行われている医師調査の、平成8年から平成18年までのデータを使用します。
(図4)
図4では、平成8年末から平成18年末の性年齢5歳階級別の病院従事医師数を郡部についてだけ切り分けています。全年齢層に亘って医師数の減少が見られ、29歳以下層だけでも、2,862人から1,094人へと半分以下、全年齢層で見ると18,166人から10,694人へとおよそ4割の減少です。
言うまでもなく、このうち大半の約35%は居ながらにして町村から市へと統計上の居を移した医師達で、実際の減少は多く見積もっても10年でおよそ5%程度です。
また、臨床研修の期間は2年間です。従って、研修医だけの動静を抽出するのであれば、29歳以下層を論じても何も言えないということになってしまいます。本来であれば、卒後2年間の医師の同定が必要です。しかし図4で言えることは、郡部医師数の減少の大半は見た目だけのものであること、しかもそれが全年齢層に亘るものであって、決して若年層だけの動きを反映しているわけではないということであろうと思います。
さて、ここまでで申し上げられることは、決して郡部(町村)から医師が無闇と撤退したということはないということになろうかと思います。
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