日経メディカルのロゴ画像

5.21 改正検察審査会法が施行(2009.4.14 訂正)
「医師が必ず起訴される制度」が始まろうとしている
棚瀬慎治(弁護士)

2009/04/09

たなせ しんじ氏。1998年司法試験合格。2000年10月司法研修所卒業後、都内法律事務所に勤務し、主に医療者側に立った弁護活動を行う。05年4月、棚瀬法律事務所設立。

1.はじめに

 医療事故と刑事責任の関係については、厚生労働省のもとで検討が続けられている死因究明事業との絡みで議論されることが多い。

 厚労省では、「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」を設置して議論が重ねられ、2008年4月に「医療安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等のあり方に関する試案」(第三次試案)が出されたのに続き、同年6月には「医療安全調査委員会設置法案大綱案」が発表されている状況である。

 その中において、「故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例」について捜査機関への通知を行うとされていることから、これに反発する意見が根強い。反対する医療者側の主張としては、医療の不確実性に鑑みて、医療事故を刑事事件として扱うこと自体が妥当でないとするもの、法案が可決されれば、いわゆる「医療崩壊」が加速するといったもの、「故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例」の中身が不明確であり、運用次第では過度な刑事介入がなされる恐れがあるとするものなどがある。

 厚労省の大綱案に対しては、民主党からも対案が出されるなどしており、議論が集約されていくのかどうかについては、依然として不透明である。

 しかしながら、このようにして設置が模索されている死因究明事業とは全く別個に、「一般市民の判断で、医師が必ず起訴される(刑事裁判にかけられる)」という制度が開始寸前となっていることはあまり知られていない。この制度は、04年5月28日に公布された「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」によって「検察審査会法」を改正し、これまで最終的には検察官に委ねられていた起訴ないし不起訴の判断について、一定の場合には一般市民で構成される「検察審査会」の判断に拘束されるようにするというものである。

 筆者は、従前からこの重大な問題について議論を呼びかけてきたが、前記の死因究明事業が厚労省のもとで議論されているのに対し、検察審査会はその管轄外であることもあってか、特段の問題意識も持たれないまま、改正検察審査会法は予定通り、本年5月21日から施行されることになっている。

この記事を読んでいる人におすすめ