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医療費削減政策を考える 第1回
正規雇用されない医師たち
上昌広(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門准教授)

2009/04/22

かみ まさひろ氏○1993年東大医学部卒業。99年東大大学院医学系研究科修了。虎の門病院、国立がんセンター中央病院を経て2005年10月より現職。

※今回の記事は村上龍氏が編集長を務めるJMM (Japan Mail Media)4月8日発行の記事(第28回 医療費削減政策を考える 第一回 正規雇用されない医師たち)をMRIC用に加筆修正し転載させていただきました。

 平成16年に導入された新臨床研修制度と、その見直し案(厚労省がパブリックコメント募集中)について、総合医導入が医療費削減と二人三脚で進められてきたことなど、その経緯や問題点について述べてきました(2月25日号3月11日号3月25日号)。今回は、厚労省が様々な医療政策を打ち出す中で、一貫して守ってきた医療費削減政策について考えてみましょう。この根源的な問題を解決しない限り、日本の医療に未来はないと言っても過言ではありません。

【医療費削減による医療者の雇用数不足】

 我が国の医療費は、OECD27カ国中20位(対GDP比8.1%)と低位にあります。医療費削減政策の結果、日本の病院の73%(うち自治体病院の91%)は赤字となっていますから、当然、人件費を削るため、職員の雇用数も抑えられてきました。全国公私病院連盟と日本病院会の2008年調査によれば、医業収支の赤字は100床当たり月約1261万円に上っています。

 病院で働く職種には、医師、看護師、薬剤師、放射線技師、臨床検査技師、衛生検査技師、栄養士、社会福祉士など、厚労省の統計に挙がっているだけでも約16種類あります。もちろん事務職員も必要です。実際、日本の病院で働く職員167万人のうち医師は10.7%に過ぎず、看護師33.9%、看護業務補助者11.9%、事務職員9.2%となっています。

 昨年、政府は方針を転換し、医師養成数を増やすことになりましたが、コメディカルに関しては未解決です。実はコメディカルの置かれた状況は医師とは全くことなります。養成数は十分ですが、雇用数が足りないのです。

 例えば、看護師の国家試験合格者数は毎年約4.6万人であるのに対し、病院に勤務する看護師数は、ピークの25~29才においても1才あたり2.7万人しかいません。また、病院に就職した新卒看護師のおよそ11人に1人が1年以内に退職(離職率9.3%)します。

 薬剤師の国家試験合格者数は毎年約8千人ですが、病院薬剤師はピークの30~39才でも1才あたり約1,300人しかいません。厚労省の検討会で、薬剤師の卒業生にとって病院に入れるチャンスは大変難関と指摘されているように、病院の採用数が限定されているのです。他にも、看護業務補助者や事務職員等、資格のない職員も大勢必要です。

 これらすべての職種の病院従事者数を合計すると、100床あたり、日本は101人に対して、イギリス740人、アメリカ504人、イタリア307人、ドイツ204人です。同様に、100床あたり看護師数は、日本は34人ですが、イギリス200人、アメリカ141人、イタリア136人、ドイツ75人です(OECD Health Data 2007)。

 日米の同程度の規模の病院を見ても、日本の病院の人手不足は明らかです。愛知県がんセンター(473床)とMD Anderson がんセンター(米国、456床)の100床あたり職員数は、それぞれ186人、3,125人と、実に17倍の違いがあります。

 これほど人手不足の状況にありながら、日本は世界最高水準の医療を提供しているのですから(WHO Health Report 2000ではっきりと述べられています)、医療現場から過重労働の悲鳴が上がるのは当然です。すなわち、現在の「医師不足」問題は、医師の問題だけでなく、医師以外のコメディカル雇用数の不足という問題なのです。

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