「当直中も、救急の外来患者を診ている勤務医がほとんど。これは当直などではなく、勤務そのものではないか」「当直業務は、割り増し賃金の対象になる労働時間には当たらないのか」――。当相談所に相次いで寄せられていたそんな勤務医の先生方の不満の声に、裁判所が応えました。
奈良地裁は4月22日、県立奈良病院の産科医2人が、当直勤務の時間外割増賃金など約9200万円の支払いを求めていた裁判で、「当直は労働基準法上の時間外労働に当たり、割増賃金の対象になる」として、奈良県に約1500万円の支払いを命じる判決を出しました(日本経済新聞4月23日付け朝刊)。
今回は、この判決を踏まえて、当直の法律上の取り扱いについて紹介します。
労基署の許可で賃金の節約図れる
労働基準法では、夜間・休日の勤務に関して「宿日直」という用語が使われています。宿直は夜間の、日直は休日の勤務です。医療界では、これらをまとめて「当直」と呼びますが、労働基準法にはこの言葉は出てきません。
日中勤務している労働者では、「常態としてほとんど労働する必要のない勤務」だけが、「監視・断続的な労働」であるとして、労働基準監督署の許可の下で「宿日直」として認められます。宿日直に対しては、日給の3分の1以上の手当を支払うだけで済みます。新聞記事によると、県立奈良病院では当時、夜勤の医師に実際に働いた分の賃金として、1回2万円の手当のみを支払っていたようです。
もちろん、患者の容態が急変するなどの理由で、宿直中に日中と同じような診療を行った場合には、通常の労働時間となり、その時間分の賃金に加えて、後述する割増賃金も支払う必要があります。
なお医療法では、「医業を行う病院の管理者は病院に医師を宿直させなければならない」という規定があります。ここにも「宿直」という用語が使われていますが、これは病院には夜勤の医師が必要であることを規定しているにすぎず、医師が夜勤した場合の労働時間の算定や賃金の支払いが、労基法上の「宿日直」に基づいて行われるというわけではありません。
夜10時を超えた残業は5割増し
労働基準法で「宿日直」と認められるのは、定期的な見回りや緊急の電話連絡への受け答え、非常事態に備えての待機などに限られています。回数も宿直は週1回、日直は月1回までとされています。
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著者プロフィール
井上俊明(日経BP医療局編集委員)●いのうえ としあき。1989年日経BP入社。医療保険制度や医業税制、病院倒産など、経済・経営分野の取材に取り組んできた。2007年11月に社会保険労務士として登録。
連載の紹介
勤務医労働相談所
医療分野で約20年の取材歴を持ち、社会保険労務士の資格も持つ著者が、その知識とネットワークを活かして、先生方からいただいた労働関連の相談にお答えします。勤務医の先生方からの相談も募集中。
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