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トシリズマブ使用中の肺炎、早期発見には“内科の基本”が大切

東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科学教授の宮坂信之氏

 トシリズマブ使用時の有害事象として最も多い肺炎を見逃さないためには、内科の基本に立ち返ることが重要だ。4月23日から東京で開催されている第53回日本リウマチ学会総会・学術集会のシンポジウム「リウマチ性疾患に対するトシリズマブ治療」で、東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科学教授の宮坂信之氏が、注意を呼びかけた。

 ヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体のトシリズマブは、既存治療で効果不十分な関節リウマチ、多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎全身型若年性特発性関節炎キャッスルマン病の治療薬として使われている。これまでに国内でトシリズマブを使用した症例数は約5000例である。

 シンポジウムで宮坂氏は、トシリズマブについて進められている市販後全例調査の結果を発表した。対象となった4182人の患者のうち、女性は81.7%、男性は18.3%で、65歳以上の症例が1522例を占めた。年齢の中央値は60歳、罹病期間の中央値は8.0年だった。8.4%に当たる350例が呼吸器疾患を、1.9%に当たる78例が心機能障害を、3.3%に当たる138例が肝機能障害を合併しており、合併症で最も多かったのは呼吸器疾患だった。

 67.0%に当たる2478例が、生物製剤の前治療を受けており、そのうち1028例がヒト型可溶性TNFα受容体のエタネルセプト(エンブレル)による治療を、903例が抗TNFαキメラモノクローナル抗体のインフリキシマブによる治療を受けていた。市販後調査の患者背景を国内で行われた臨床試験の患者背景と比べると、年齢が高く、罹病期間が長く、重症例が多い傾向が見られた。

 738症例に1208件の有害事象の発現がみられ、そのうち重篤なものは159症例の204件だった。重篤な有害事象のうち、最も多かったのは感染症および寄生虫症の76件。なかでも、最も多かったのは肺炎で、重篤なものが17件、非重篤なものが7件確認された。

 問題は、トシリズマブを使用している患者では、肺炎などの感染症の症状や検査所見が現れにくいことだ。特に発熱やCRP、血沈は、トシリズマブ使用中、ほぼ正常値を示すため、検査所見だけで感染症を早期発見するのは難しい。「インフリキシマブやエタネルセプトなどの抗TNFα療法でもCRPなどが下がる傾向はあるが、トシリズマブほどではない」(宮坂氏)。

 そのため、白血球数の上昇や好中球の核の左方移動などに注意することが有用であるほか、「患者をよくみて問診し、聴診器を当て、息切れがないかどうか確認したり、酸素飽和度を測るなど、内科の基本に立ち返ることが必要だ」(宮坂氏)という。見逃して帰すと、次に来院した時には、肺炎が重症化して入院が必要になりかねないという。抗TNFα療法不応例に対しても有効性が確認され、使用する症例が増えているだけに、使い方には注意が必要だ。

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