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パンドラの箱を開けるのは今―宿直問題は国民的議論の入口にすぎません!
梅村聡(参議院議員)

2009/05/11

うめむら さとし氏○2001年大阪大医学部卒業。箕面市立病院、阪大病院にて診療に従事。2007年7月の参議院議員選挙にて大阪選挙区より立候補し初当選。参議院厚生労働委員会所属。民主党の医療・介護改革作業チーム事務局長を務める。

 去る4月14日、参議院厚生労働委員会で、勤務医の労働環境に関して質問をさせていただきました。勤務医の労働環境といえば、先立つ3月下旬、愛育病院が労働基準監督署の査察・是正勧告を受け、夜間の常勤医確保が困難であることを理由に総合周産期母子医療センターの指定返上を都に打診したことは、皆様ご記憶に新しいかと思います。

 同様の査察を、日赤医療センターをはじめ複数の医療機関が受けていたことも報道されました。勤務医の労働実態が労働基準法の定める範囲に収まらない、順守しないのでなく守れないという状況は、全国的に常態化しています。

 ただし、今回の私の質問の意図は、それを今日明日どうにかしろというものではありません。私は質問の中で、切り口として、医療法16条の定める「宿直」と、労働基準法労基法上の平成14年3月19日の局長通達にある「宿直」の意味合いが異なることを指摘しました。(答弁の詳細につきましては、梅村さとしオフィシャルサイトからロハス・メディカルweb掲載記事にリンクしています。)。

 ただ、いずれにしても問題はそうした言葉や概念云々に限ったことではないのです。むしろ宿直問題は、医療における労働環境対策がいかに遅れているかの象徴に過ぎず、医療費の議論を含め、今後の医療のあり方を考える上での入口に過ぎないと考えています。

【なぜ宿直問題を取り上げたのか】

 さて、今回私がなぜこの宿直問題を取り上げたのか、そもそもの問題意識に立ち返るなら、私が一昨年に政治の世界に足を踏み入れたきっかけにまで遡ります。

 私は2001年に医学部を卒業し、公立病院で医師として働き始めました。それからの約7年間、日々、多忙で過酷な勤務実態を自ら体験したわけです。勤務時間帯以外にも、オンコールといって呼び出しをいつ受けても対応できる体制が求められ、要は四六時中、医療に縛り付けられた状態の毎日でした。とはいえそれでも、「できるならやればいい。そこまで悪い制度でもない」くらいに思い、従事していたのです。

 ところが、そうした状況の中である日、同じように働いていた同僚が体を壊しました。いざそうなってみると、彼の生活を保障するものは何もありません。時間外賃金も支給されるわけでなく、急な呼び出しに手当てがつくわけでもない。それでも身を挺して医療に貢献した挙句、体を壊して働けなくなっても、多くの医師には何の身分保障もないのです。その事実を目の当たりにして、私も愕然としました。実際、「これではやっていられない」と、多くの先輩医師が現場を去る姿も見送ってきました。

 それでも近年、こうした実態が徐々にマスコミにも取り上げられるようになってきました。ただし、その内容はというと、国民の興味を誘うニュース性の強い事例に焦点をあてて、感情に訴えるものが通例です。法律や制度の矛盾・問題点を浮かび上がらせ、細部を詰め、現状を許している法的根拠から是正していくような作業は行われてこなかったのです。

 しかし、そうした部分を放置することで、最終的に被害を受けることになるのは患者さんです。それなのに国民へ向けたわかりやすい議論は、それを担うべき政治の舞台においてさえ、なかなか行われてきませんでした。例えば医療事故調査委員会の設置に関しても、多くの論点について議論が錯綜しているものの、一般国民に訴える内容というより、医療関係者や当事者の論理や焦りばかりが目についてしまいます。

 一方、宿直とそれを規定する法律の問題は、非常に論点が明快で、かつ、勤務医の過酷な労働実態を消極的にも容認する根拠となっています。そこで、一般の方にもわかりやすい議論ができると考え、取り上げさせていただいたというわけです。

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