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対面販売なら本当に安全なのか―薬のネット販売禁止に物申す!
世耕弘成(参議院議員)

2009/05/29

せこう ひろしげ氏○1962年生まれ。日本電信電話株式会社の広報を経て、1998年参議院和歌山県選挙区補欠選挙に立候補し、初当選。2006年、内閣総理大臣補佐官に就任。現在、参議院議院運営委員会筆頭理事、近畿大学副理事長などを務める。

 去る2月6日、厚生労働省が「薬事法施行規則等の一部を改正する省令」を公布しました。省令では、インターネット販売をはじめとする医薬品の通信販売について、リスクの低い医薬品を除き販売を禁止する旨を定めています。

 私はこの規制強化に、強い危機感を覚えます。十分な国民的議論がないままに、国民あるいはその代表者たる国会の承認を経ない省令というかたちで、多くの販売者そして利用者が、薬を販売し入手する機会を奪われるのです。

 厚労省が根拠としているのは、「対面販売による安全性の担保」です。店頭で専門の販売員が購入者と向き合い、情報提供とともに薬を販売することが、誤った薬の使用の防止につながる、という主張です。この考え方は、一見、もっともらしく聞こえます。

 もちろん大前提として、薬害はあってはならないこと、そのため薬の流通、情報管理・連絡等について慎重かつ適正であることが求められる点には、私も心から賛同します。しかし、対面販売=安全、あるいはネット販売=危険という概念には、論理の飛躍としか言えない側面を多分に含んでいるのです。以下、詳しく検討していきたいと思います。

【薬の7割がネットで入手不可能に】

 今年6月に完全施行される改正薬事法では、一般医薬品を、特にリスクの高い「第1類」、リスクが比較的高い「第2類」、リスクが比較的低い「第3類」に区分しています。こうした分類を行い、それに基づき販売方法に何らかの差異を施すことは、薬害防止にも資するものであり、私も異存はありません。

 さて省令では、薬事法施行規則第15条の4として、通信販売において「第3類」薬品以外の医薬品の販売を禁止しています。これがどういうことかと言いますと、現在インターネットで購入できる一般医薬品のうち、7割近くが店頭でしか入手できなくなるということです(富士経済グループ2008年7月発表データ。2007年の市場規模ベースで「第1類」が4%、「第2類」が63%を占めるとしている)。

 多くが「第2類」に含まれる胃薬、風邪薬や解熱剤、漢方薬等は購入できなくなり、せいぜいビタミン剤や整腸薬しか買えなくなるのです。

 現在、医薬品の通信販売は約800億円の市場規模となっており、インターネットは約900万人弱の利用者の医薬品購入手段となっています。その7割が規制の対象となるのです。何より、医薬品のインターネット販売が禁止されると、困る利用者が大勢います。過疎地に居住する人、外出に支障のある障害のある人、忙しくて開店時間になかなか買いに出られない人、近くのお店では売っていない薬をすでに常用している人などです。

 このように、ネット販売が医薬品の重要なアクセス手段となっている今日、きちんとした国民的議論が尽くされないまま省令一本で簡単に規制を加えることが、果たして許されるのでしょうか。

【省令公布をめぐる動き】

 2006年に薬事法が改正・公布され、今年6月施行となったことを受け、厚労省は「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会」を昨年2月から計8回実施しました。この検討会で、「医薬品販売時における情報提供は専門家が対面で行うこと」とするいわゆる「対面販売の原則」が強調されたのです。

 これに沿って、「インターネット販売をはじめとする通信販売では、最もリスクの低い『第3類』の医薬品のみ、販売を認めるべき」とする報告書がまとめられました。厚労省もそれに基づいて省令案を作成、ホームページ上で公開し、パブリックコメントの募集を開始しました(2008年7月)。

 省令案が発表されると、まもなく楽天やヤフーなどのショッピングモール事業者、通信販売事業者団体、インターネット先進ユーザーの会(MIAU)らが、次々に規制への反対を表明。共同で、医薬品の通信販売の継続を求める共同声明およびガイドラインを発表してきました。

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