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検討される専門家としての「家庭医」養成
医師不足と医師偏在を一気に解決する切り札「家庭医」
土屋了介(国立がんセンター中央病院病院長)

2009/06/01

つちや りょうすけ氏○1970年慶応義塾大学医学部卒。慶応病院外科、国立がんセンター病院外科を経て、2006年より現職。

 ※今回の記事は、「gooヘルスケア」に2009年5月7日に掲載された記事(「Zoomヘルスケア 検討される専門家としての「家庭医」養成」)に、さらに加筆したものを転載させていただきました。

―「家庭医」養成から、患者さんと医療者の立場を超えた、みんなでつくるこれからの医療のかたちを提案します―

【頼れるお医者さんって、どんな人?】

 「なんとなく体調が悪いけど、誰に相談すればいいの?」「お医者さんは忙しそう、ちゃんと話を聞いてくれるかしら?」「急に熱が出た!どうすればいいの?救急車を呼ぶしかないの?」「産科医不足っていうけど、安心してお産や育児のことを相談できるお医者さんが近くにいればいいのに……」「病気がちな親のことが心配。介護のことも相談したいのだけど……」

 こうした心配ごとを、ふだんの生活で、あるいはクリニックや病院にかかったときに感じたことはありませんか?毎日のように、「医師不足」「地方の病院から医師がいなくなった」「都市部でも救急のときに対応できない」といったニュースが飛び込んできます。

 「いつでも相談できる、自分のことをよく知っていてくれるお医者さん。子どもや親のことも親身になって聞いてくれて、急に具合が悪くなっても落ち着いてしっかり対応してくれるお医者さん。そんな人が近くにいればいいのに!」と誰もが思うことでしょう。僻地医療に取り組んでいるお医者さんなら、そういう対応が可能かもしれません。地域によっては、患者さんを全体的に診ることに熱心なお医者さんもいらっしゃいます。

 一方、「病気をしたらすぐに大病院にかかる傾向が強いが、地域で信頼できるかかりつけ医を見つけ、まずそこを受診しよう」と、提唱されています。しかし、残念ながら、というより驚くことに、現在のわが国の医療において、患者さんの疑問や不安にお応えして、「どうぞ、安心してお任せください」といえる医師が、地域のどこにいるのかがわかるしくみは存在しません。信頼できるかかりつけ医を探すには、手探りや口コミに頼るしかないのが現状です。

 こうした多くの方々の声に対して、私は頼れる「家庭医」を、充実した教育研修プログラムのもとで養成するしくみを提案しました。将来的には、「家庭医」の認定制度が整い、「家庭医」であることがすぐにわかる看板を地域で見かけることができることも想定しています。

【家庭医は、あなたと家族・地域を守る、頼れる専門家】

 私は昨年9月から、「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究班」の班長として、半年の間に医療現場で働いているさまざまな立場の医師、教育研修をしている医師、そして将来医師になるために励んでいる医学生などと、今の医療の多くの課題について徹底的に議論しました。

 皆さんがどんな医師を望んでいるのか、という視点でこれからの医療を支える人材をどうやって養成すればいいのか、これまでの医療や教育研修制度の問題点や、海外の研修制度の動向を調査した上で、「頼れる医師を育てる研修制度を、医療に関わるすべての人が力を合わせてつくりましょう」と提案し、この春、提言書を厚生労働省はじめ関係機関に提出しました。

 その中で「家庭医」を、地域の医療や健康の問題に対して、患者さんの気持ち、家族の背景、地域の特性に応じて継続的に医療を行える「専門の職種」であると位置づけることを提案しました。そして、家庭医を育てるために必要な養成プログラムを検討しているときに、とても面白いことがわかってきたのです。

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