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新型インフルエンザに厚労省がうまく対応できないわけ
小松秀樹(虎の門病院泌尿器科)

2009/06/09

 09年ゴールデンウィーク以後の新型インフルエンザ騒動は、厚労省の問題点を浮き彫りにした。行政は、実情の認識を基本にするのではなく、法規範や目標に現実をあわせようとする傾向が強い。

 医系技官は医学的知識を期待されているようだが、行政官であり、科学のような実情認識ではなく、規範を行動原理としている。規範が無理なものでも、押し通そうとする。これがインフルエンザへの対応をギクシャクさせた。WHOやアメリカのCDCの専門家は科学者だが、厚労省の医系技官は行政官であり、根本的に考え方が異なる。

 私はインフルエンザについては全くの素人であるが、ネット上の医療メディア、ソネット・エムスリーの求めに応じて、厚労省の検疫を批判している現役の検疫官木村盛世氏と対談した (医療維新 新型インフルエンザ緊急対談 09年5月26日27日)。一部からは、十分な知識を持たないのに意見を述べたとして、無責任かつ軽薄との批判を浴びた。私の意見は、新型インフルエンザについてというより、厚労省が抱える原理的な問題に関するものである。

○新型インフルエンザ:印象深い二つの論文

 以下、インフルエンザ問題に関して目を通したいくつかの論文から、最も印象深かった二つを紹介する。

 1918年から1919年のスペイン風邪の大流行では、世界人口18億人のうち感染者は6億人で、5000万人が死亡した(Wikipedia)。WHOが2006年に発表した論文には、大流行時の検疫が言及されている。オーストラリア、カナダ、アメリカのコロラド、アラスカなどの古い記録が紹介されているが、人口密度が希薄な地域でも、めったなことでは検疫は成功しなかった。90年前のアメリカやカナダの田舎町は、自給自足に近く、検疫の経済的影響は小さかったはずである。

 現代の日本で、実質的に意味のある検疫を実施することが可能か、90年前の失敗を踏まえて、冷静に検討する必要がある。

 1919年オーストラリアで、個々の州が自分の州を守ろうとしたことによって、州政府の間、州政府と連邦政府の間に政治的軋轢が生じた。問題となったのは、最初に病気が発生した州からの報告の遅れ、州境での病気伝播の制御、停留措置に対する抵抗、西オーストラリア州による大陸横断鉄道の一時的没収、オーストラリア連邦内での連邦政府当局と州当局の対立などである。詳細は、ニューサウスウェールズ州によって記録されている。

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