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基礎インスリン追加療法は早期開始が血糖コントロールを得やすい

2009/06/07
宇田川 久美子=医学ライター

オレゴン健康科学大学のMatthew Riddle氏

1型糖尿病とは違い、2型糖尿病患者へのインスリン療法は、どちらかというと「最後の手段」との印象が強いかもしれない。しかし、治療開始時のHbA1c値が高くなるほど血糖コントロールが得にくく、早期から基礎インスリン追加療法を開始する方が望ましいとの可能性が示された。2型糖尿病患者に対する基礎インスリン追加療法に関する12の無作為化比較試験(RCT)のデータを解析した結果、明らかになった。オレゴン健康科学大学Matthew Riddle氏(写真)らが6月6日、ニューオーリンズで開催されている第69回米国糖尿病学会ADA2009)のポスターセッションで報告した。

 ADAガイドラインでは、低血糖リスクが過度に上昇するようなことがない限り、2型糖尿病患者のHbA1c値は<7.0%を目標とすべきとしている。また、ADA/EASDが昨年発表した2型糖尿病に対する最新の治療コンセンサスでは、非薬物療法とビグアナイド単剤で血糖コントロール目標値を達成できない場合、次なる段階に考慮すべき最も適切な治療戦略の1つに基礎インスリンを追加する療法を挙げている。

 そこでRiddle氏らは、(1)基礎インスリン追加療法によりどの程度のHbA1c低下が得られるか、(2)目標HbA1c値(<7.0%)の達成率は登録時のHbA1c値によって異なるか、(3)目標HbA1c値達成と低血糖の間に相関はないか--の3点を明らかにする目的で、過去のRCTデータの解析を行った。

 同氏らは、1997~2007年に報告された成人2型糖尿病患者に対するインスリングラルギン治療に関する17のRCTのうち、空腹時血糖≦100mg/dLになるよう週1回以上の頻度で厳密に用量調節がなされていた12のRCTを抽出。登録時およびインスリングラルギン治療開始後最低1回のHbA1cデータ測定がなされていた2312例を解析の対象とした。なお、追跡期間は24週であったものが10試験、26週、28週が各1試験であり、24週までのデータが解析に供された。

 患者の年齢は平均58.4±10.1歳、男女比は1279/1033、罹病期間は平均8.9±6.16年であった。ベースライン時のHbA1c値は平均8.78±1.06%であり、<8.0%の患者(グループ1)が25.1%、8.0~8.4%の患者(グループ2)が18.9%、8.5~8.9%の患者(グループ3)が15.6%、9.0~9.4%の患者(グループ4)が14.1%、≧9.5%の患者(グループ5)が26.3%だった。

 全2312例のうち、24週の追跡を完遂した患者は2193例(94.9%)だった。これらの患者の24週後の平均HbA1c値は7.07±0.95%であり、登録時からの低下幅は平均1.71%であった。低下幅は、グループ5で最大(-2.6%)であり、以下グループ4~1の順で小さくなった(それぞれ-2.03%、-1.64%、-1.37%、-0.9%)。低下幅と登録時のHbA1c値には有意な負の相関が認められた(r=-0.62、p<0.001)。

 しかし、目標HbA1c値(<7.0%)の達成率は、逆にグループ1で最も高く(75.4%)、グループ2~5の順で小さくなった(それぞれ62.8%、55.8%、46.6%、33.9%)。登録時のHbA1c値が8.0%以下であった場合、目標HbA1c値を達成できるオッズ比は2.98(95%信頼区間2.15-4.13)と計算された。

 一方、各グループにおける低血糖(<70mg/dL)の発現頻度には有意な差は認められず(p=0.713)、重篤な低血糖の発現頻度も同様であった(p=0.7528)。

 以上の結果より、HbA1c値が高い患者ほど基礎インスリン追加療法によるHbA1c低下幅は大きくなるが、HbA1c<7.0%を達成することは難しくなるのに対し、HbA1c<8.0%の段階から基礎インスリン追加療法を開始した場合は75%もの高率でHbA1c<7.0%達成が期待できることが示された。また、早期から基礎インスリン追加療法を開始した場合も低血糖リスクは上昇しないことから、良好な血糖コントロールのためには「早期からの基礎インスリン追加療法」も考慮すべきことが示唆された。

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