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“Real world”におけるインスリン導入の遅れが浮き彫りに

2009/06/08
宇田川 久美子=医学ライター

英国バーミンガム大学のNick Freemantle氏

 CREDIT研究は、インスリン導入から1年以内の2型糖尿病患者における血糖コントロールと心血管リスクの関係を検討するため進行中の多施設共同国際研究である。その登録患者背景をまとめた英国バーミンガム大学Nick Freemantle氏(写真)らは6月6日、登録時にすでに患者の多くが合併症を抱えていること、すなわち、インスリン導入の遅れが常態化している実態を、ニューオーリンズで開催されている第69回米国糖尿病学会ADA2009)のポスターセッションにて明らかにした。

 CREDIT(Cardiovascular Risk Evaluation in people with type 2 Diabetes on insulin Therapy)研究は、北米、欧州、アジアの13カ国・314施設が参加する国際長期観察研究であり、4年間の追跡が行われる予定となっている。対象は、「インスリン導入から1年以内の2型糖尿病患者」とのみ定められ、インスリン製剤の種類は不問とされた。

 同研究には、全3031例の患者が登録。年齢は平均61.3±10.3歳、男女比は51:49、人種構成は白人71:黒人1:アジア系24:その他1、BMI>30kg/m2の肥満者の割合は59%だった。また、糖尿病罹病期間は平均10.6±7.8年、空腹時血糖値(FPG)は平均208±67mg/dL、食後血糖値(PPG)は平均256±83mg/dL、大血管障害を1つ以上有する患者の比率は34%、大血管障害・細小血管障害を含めた糖尿病合併症を1つ以上有する患者の比率は80%であり、かなり進んだ病態をもつ患者像が浮かび上がった。

 さらに、これらの患者をHbA1c値によってグループ1(HbA1c≦8.5%、1025人)、グループ2(8.5~10.1%、956人)、グループ3(>10.1%、972人)の3群に分けたところ、最もHbA1c値の高いグループ3の患者は、他群に比べ有意に若年であった(それぞれ63.1±10.3歳、61.3±10.0歳、59.6±10.1歳、p<0.001)。すなわち、若年層ほどインスリン導入が遅れがちであるとの可能性が示唆された。

 また、総コレステロールとLDL-コレステロール、中性脂肪(TG)の値のいずれも、グループ3、2、1の順で高く(いずれもp<0.001)、グループ3の患者の15%がLDL≧160mg/dL、51%がTG≧150mg/dLだった。

 一方で、全登録者の69%が高血圧を有し、53%が運動習慣を持たず、19%が喫煙者だったが、これらの危険因子とHbA1c値間には有意な相関は認められなかった。

 以上より、“real world”における2型糖尿病患者は、かなり病態が進行した状態になって初めてインスリンが導入されており、導入時にはすでに血管合併症を発症し、脂質異常症の合併も進んでいるという実態が浮き彫りとなった。こうしたハイリスクな患者において、インスリン療法はどの程度血糖をコントロールし、どの程度心血管疾患の発症・進展を抑えることができるのか?  CREDIT研究の動向が注目されるところである。

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