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原発性肺高血圧症の患者達の願い
村上紀子(NPO法人PAHの会理事長)

2009/07/30

 私の娘は1996年に14歳の時に、原発性肺高血圧症(PPH)と診断され、その当時の国内の主だった病院の医師からは「余命6ヶ月で現在の医学では100%助けられる方法はないので、本人の好きなことをさせて見送ってあげなさい」との宣告を受けました。しかし何としても娘を助けたい、死なせたくないという一心で、私たち家族が自分たちで海外の治療法を探した結果、当時日本では専門医でさえも全く知らなかった大変有効なフローラン治療(米国では1995年にFDAより承認)が実践されていることを知りました。

 日本の主だった施設の専門医も知らない有効な治療法があるなどとは、当時は半信半疑でしたが、ともかくも家族でパスポートを取得し、渡米して、この治療法の世界的先駆者である医師(Dr.RobynBarst)の治療を受けるために、1996年4月に、ニューヨークのコロンビア大学病院をたずねました。(この治療法を私達家族が探り当てたのは、親戚に米国在住の医師がいたためです)

 異国の病院での専門医のもと、フローラン治療(カテーテルを胸部に埋め込み、専用の小型ポンプを携帯して、3分ごとに薬液を送り込む24時間の静脈注射)を開始した結果、娘は大変元気になり、帰国して6ヶ月どころか、再び学校に通うことができるようにまで回復しました。

 ところで余命6ヶ月と宣告されていた娘が、6ヶ月経っても元気に学校に通う姿は、私達家族にとってはまるで夢をみているような衝撃的な体験でした。

 「命に関わる疾患を患う患者にとって、新薬との関わりは大変重要な意味を持つ」ということ、そして何よりも「自分の病気のことは医師任せでなく、自身で責任をもたなければならない」ということを身をもって体験したことで、肺高血圧症と診断されて、病気や治療法の情報が極端に少なく、悲嘆にくれている患者や家族に、最新の医療情報を提供することで、生きるための勇気と希望を与えたいと願い、同病の子どもを持つ数人とともに、1999年に患者会を設立いたしました。

 PPH(原発性肺高血圧症)とはprimary pulmonary hypertensionの略で、100万人に1、2名とも言われる希少疾患で、現代医学をもってしても、原因も予防法も治療法も不明な、極めて重篤な疾患です。

 尚、原発性肺高血圧症は、肺移植の待機患者が最も多い疾患でもあります。以前はこのような病気が存在することすら一般には殆ど知られる事もなかったのですが、近年に公開された韓国の人気女優チェ・ジウ主演の「連理の枝」という題名の映画の中で、主人公が突然襲われる不治の病が肺高血圧症という病気であったために、最近では以前よりも知られるようになってきております。

 肺高血圧症の病態は進行性で、どの医学書を開いてみても、「発病してから数年で全員が死に至る」と書かれており、実際に当会の会員の7~8分の1ほどが現在でも毎年亡くなっていきます。当会は、その(原発性)肺高血圧症(現在では膠原病や先天性心疾患などの合併症から併発した二次性の肺高血圧症(注1)の患者も含む)患者と家族が、「何とか生き残りたい。どうしたら生き残れるだろうか?」との必死の思いで、最新の医療情報を国内のみならず、海外の同じような目的で活動しております患者団体、特に米国肺高血圧症協会とは相互協力協定を結び、お互いに密に情報を交換して励まし合い、助け合って運営している患者会です。

 ではこの病気に罹ると具体的にどのような症状が現れるのか?ということですが、ある日突然に体全体の血圧とは別に、肺の血圧のみが上昇し始めて、心臓から肺への血液循環を妨げて、心不全を併発し、元来は肺の疾患ですが、心不全により命を落としてしまいます。

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