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民主党の医療政策とその実現可能性を読む
二木 立(日本福祉大学教授)  (2009.8.21訂正)

2009/08/01

 「政界は一寸先は闇」といわれますが、8月30日投票の総選挙に限っては、民主党が第一党になり、現在の自公連立政権に代わって、民主党を中心とする政権(以下、民主党政権)が誕生することはほぼ確実といわれています。そこで、本稿では、民主党の医療政策を、現政権の医療政策との異同に注目しながら、概括的かつ中立的に検討します。

 その際、民主党が7月27日に公表した「マニフェスト」中の医療政策および「医療政策<詳細版>」(以下、「詳細版」)だけでなく、本稿執筆(7月31日)までに入手できた、2003年以降の民主党の一連の医療政策、および「詳細版」の原案、民主党幹部の発言も紹介します。それにより、民主党の医療政策の形成・変化のプロセスが分かるからです。

医療費と医師数の大幅増加の数値目標
 民主党の医療政策で最も注目すべきことは、医療費と医師数の大幅増加の数値目標が示されたことです。具体的には、「OECD平均の人口当たり医師数を目指し、医師養成数を1.5倍にする」、「総医療費対GDP比をOECD加盟国平均まで今後引き上げていきます」と明記されました。もちろん、「自公政権が続けてきた社会保障費2200億円の削減方針は撤回する」とされています。

 実は、民主党は、わずか2年前の「マニフェスト2007」までは、医療費総額の拡大は掲げていませんでした。それどころか、「民主党の考える医療改革案」(2006年4月)では、逆に、無駄の排除と予防医療の推進により「中長期的には医療費総額・医療給付費はいずれも政府の推計値を下回る可能性が高い」という、自民党や厚生労働省と類似した主張すら行っていました。

 このことを考慮すると、今回の民主党の医療政策の転換・発展は画期的と言えます。公平のために言えば、自公政権(福田・麻生首相)も、「骨太の方針2008」で医師数抑制政策を見直し、「骨太の方針2009」で小泉政権が定めた社会保障費抑制の数値目標を事実上見直しましたが、医師数・医療費の「大幅増加」には踏み込んでいませんし、小泉政権の数値目標も名目上は維持しています。

 それだけに、もし民主党の医療政策が実現すれば、1980年代以降四半世紀続けられてきた医療費・医師数抑制政策の根本的転換となることが期待されます。

個々の医療政策も現実化・具体化
 次に、民主党の個々の医療政策を検討します。

 医療保険制度では、「国民皆保険制度の維持発展」を大前提とした上で、「後期高齢者医療制度の廃止と医療保険の一元化」が掲げられおり、この点では現行制度の維持を主張する現政権とは大きく異なります。ただし、直嶋正行民主党政調会長は、すぐに元の老人保健制度に戻すのではなく、新制度を検討した上で廃止すべきとの私見を明らかにしており、激変は避けるようです(「中日新聞」7月28日朝刊)。

 また、「医療保険の一元化」は「将来」の目標とされ、「マニフェストの工程表(2010~2013年度)」にも含まれておらず、事実上棚上げされています。他面、「わが国の医療保険制度は国民健康保険、被用者保険(組合健保、協会けんぽ)など、それぞれの制度間ならびに制度内に負担の不公平があり、これを是正します」と明言していることは注目に値します。以上から、民主党政権の下でも、医療保険制度の「抜本改革」はなく、「部分改革」が積み重ねられると思います。

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