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医療だけを良くしようとしてもとても無理だ
つまずいても「生きていける国」へ

2009/09/02

 衆議院選挙は歴史に残る地滑り的な民主党の圧勝に終わりました。「政権交代がない民主主義は民主主義ではない」と講演で訴え続けてきた私にとっては、その政権交代を目の当たりにすることができて、まさに感無量です。 

 日本では政治に関してものを言うことは、あまり好まれない風潮があります。誤解がないように付け加えますが、私は盲目的に民主党をはじめとする野党を応援し、与党を批判していたわけではありません。 

 以前からこのブログで紹介してきたように、私は日本の医療崩壊の根底には、明治維新以来続く「官尊民卑」、社会的責任を果たす気概に乏しい経済界、そして民主主義国家の一員としての自覚がまだ不足している国民に責があると分析していました。日本が目前に迫った世界未曾有の少子超高齢化社会を乗り切るためには、税金の使い方を国民が選択することが必要で、そのために政権交代は不可欠だったのです。

 民主党の大勝利に油断は禁物です。1回の政権交代で、明治以来140年以上続いてきた問題が一気に解消されるわけがありません。これからも辛抱強く政権与党の政策を注視し、是々非々で時には応援を、時にはより良い政策を訴える野党への政権交代を主張していく必要があります。

 なぜ私は、医療崩壊阻止にこのように情熱を燃やせるのか。それは、地域中核病院の現場で、既に医療だけでなく、日本社会が崩壊しつつあることを肌で感じているからです。フリーターやニート増加による格差社会、少子高齢化による高齢世帯の増加、10年以上毎年3万人を超える自殺者、そして昨年の派遣切りなどが、その象徴と言えるでしょう。

 私の身の回りを見ても、ここ数年で個室の入院希望者が少なくなりました。また、特に高齢の患者さんの場合、一度入院したら、せっかく病状が改善しても家族の仕事の関係でできるだけ長期の入院を希望される方が増えました。もちろんその背景には、慢性期の病院や介護施設の不足があります。さらに、高齢の夫婦や単身世帯ではもっと事態は深刻です。まさに私たち医療者の眼前で、日本の介護や福祉体制の不備が毎日のように明らかとなるのです、それが地域病院の実態なのです。

 日本国憲法第25条は、国民の生存権と国の社会的使命について以下のように定めています。

第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。


 しかし、日本では、この25条が守られていません。こんな状態では、医療だけを良くしようとしてもとても無理だ――。そのような問題意識を持っていた時に、憲法25条を守るための「基本法」を一緒に考えてみませんか、と声をかけていただきました。

著者プロフィール

本田宏(済生会栗橋病院院長補佐)●ほんだ ひろし氏。1979年弘前大卒後、同大学第1外科。東京女子医大腎臓病総合医療センター外科を経て、89年済生会栗橋病院(埼玉県)外科部長、01年同院副院長。11年7月より現職。

連載の紹介

本田宏の「勤務医よ、闘え!」
深刻化する医師不足、疲弊する勤務医、増大する医療ニーズ—。医療の現場をよく知らない人々が医療政策を決めていいのか?医療再建のため、最前線の勤務医自らが考え、声を上げていく上での情報共有の場を作ります。

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