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一体どこに医師が余っているというのか

2009/09/30

 全国で起きている医療崩壊の大きな背景には、日本が長年堅持してきた低医療費政策と、それを達成するための医学部定員削減、その結果としての医師の絶対数不足があることが知られるようになりました。既に医師増員の必要性は、医療が崩壊している地域の一般住民だけでなく、メディアや政治家の方々にも広く理解されるようになっています。

 しかし、大変残念ながら私のブログには、医師増員に反対する声がいまだに寄せられます。(「医療崩壊のウソとホント」「医師増員署名をいよいよ国会提出へ」)。

 今回は、医師増員署名に同封されていた、首都圏のある大学関連病院の15年目の病理医からいただいた手紙を、ご本人の了解を得てご紹介したいと思います。

前略

本田宏先生にはご無沙汰しております。
私もいつの間に病理医歴15年となりました。切り出しと顕微鏡の日々を過ごしています。この連休中、学会スライドを作成しつつ、ようやく先生のブログまで到達できました。遅くなりましたが、署名一筆、参加させてもらいます。

現場病理屋から一言。

病理医はデスクワークなので楽かと思えば大違いです。院内全科の組織検体が来ます。新研修医制度が発足した後、剖検数が激減しましたが(臨床側で、病理解剖に立ち会える医師の確保が困難になっているという事情があります)、手術、生検件数は年々確実に増加しています。ESDや乳腺部分切除に代表される、全割マッピング、断端検索といった、多数のプレパラートの作成、検鏡と、詳細な記述を求められる症例が特に増加しています。近年、病理組織診断1件により多くの時間と体力を費やしているというのが実感です。

その一方で、病理という分野はどうも医療の中でも冷遇されています。大体、標榜科になる、ならないで今までもめていますし、医学生、研修医への希望分野アンケートでも病理という独立した項目はまず作られていません。結果、病理組織診断の需要の増加に見合う若手医師の参入がなく、病理医全体が高齢化しつつあります。また、病理医の中でも低い人事評価、過労等から病院を離れる人が徐々に出始めています。事実、私共の医局でも数名の医局員がまとまって退職し、残っている者はてんてこ舞いの日々を送っています。

組織、画像が好きな医者にとって、病理はinterestingな仕事だと思います。若い人を取り込んだマンパワーの増強で、本来の仕事の楽しさを取り戻したい、そう願っています。
草々

9月23日

○○○○○
○○○医大○○病院病理部

著者プロフィール

本田宏(済生会栗橋病院院長補佐)●ほんだ ひろし氏。1979年弘前大卒後、同大学第1外科。東京女子医大腎臓病総合医療センター外科を経て、89年済生会栗橋病院(埼玉県)外科部長、01年同院副院長。11年7月より現職。

連載の紹介

本田宏の「勤務医よ、闘え!」
深刻化する医師不足、疲弊する勤務医、増大する医療ニーズ—。医療の現場をよく知らない人々が医療政策を決めていいのか?医療再建のため、最前線の勤務医自らが考え、声を上げていく上での情報共有の場を作ります。

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