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医師の労働時間を考える Vol.1
“80-hour rule”―研修医の労働時間は週80時間以内

2009/10/01
永松 聡一郎

 私は2004年に渡米し、ミネソタ大学で内科のレジデンシーを修了、現在は同大学呼吸器内科・集中治療内科のクリニカルフェローをしています。大学では、医療全般、とりわけ集中治療における医療の質を向上させる(quality improvement)プロジェクトに携わっています。

 この5年間で、日米の違いもさることながら、米国の医療システム自体がダイナミックに変化していく様子を目にしてきて、米国の医療制度に興味を持つようになりました。このブログでは、米国で臨床に従事する者の視点から、現代の米国医療に影響を与えた歴史的なイベントや、医療制度論について解説していきます。最初のテーマは「医師の労働時間」です。

 昨今、日本でも医師の労働時間や過重労働について議論され始めていますが、米国ではレジデントと呼ばれる研修中の医師の労働時間が、最大週80時間と制限されていることはご存じでしょうか。この労働時間制限の規則は、20年以上も昔に、ニューヨーク州を皮切りに、2003年には米国全土で実施されるようになりました。

 この労働時間制限について、以下のように5回に分けて解説したいと思います。

1) 2003年に実施された労働時間制限の解説とその運用状況
2) 労働時間制限を全米で実施させるに至った重大なイベント
3) 労働時間制限をきっかけとして、医師のキャリアプランや、医療の供給体制に起きた変化
4) 労働時間が制限されることによって、レジデントの教育に変化があったのか、患者により安全な医療が供給されるようになったのかという再評価
5) 2008年度に出された、米国医学研究所による労働時間制限の勧告と見直し

 まずは、2003年に施行された労働時間制限とその運用状況について解説します。

ACGMEによる労働時間を制限する規則 (duty hours regulation)
 レジデンシー・フェローシップと呼ばれる、医師の卒後教育プログラムを許認可しているのは、ACGME (Accreditation Council for Graduate Medical Education:卒後医学教育認定評議会)という団体です[1]。その管轄範囲は米国の27診療科、8490プログラム、約10.8万人のレジデントに及んでいます。

著者プロフィール

永松 聡一郎

ミネソタ大学呼吸器内科・集中治療内科クリニカルフェロー

2003年東京大学医学部医学科卒。アメリカ内科専門医(ABIM)。帝京大学市原病院麻酔科、ミネソタ大学内科レジデントを経て、2008年より現職。専門分野は集中治療におけるQuality Improvement。病院間で異なる治療プロトコールの標準化や多施設間クリニカルトライアルのコーディネートを行っている。趣味は演劇、航空機。

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