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「院内事故調査委員会」についての論点と考え方(2)
小松秀樹(虎の門病院泌尿器科)、井上清成(井上法律事務所)

2009/10/06

 ※本稿は『週刊 医学のあゆみ』Vol.230 No.4(2009年7月25日号)に掲載されたものです。

院内事故調査委員会の構成

 理念からは、できる限り内部委員のみで構成することが好ましい。管理者自身もケースバイケースではあるが、内部委員から一律に排除すべきではない。ただし、管理者が委員になると、開設者と同様、病院経営が優先されて、患者に不利な、あるいは、医療従事者に不利な方向のバイアスが働く可能性がある。

 一方、小規模病院、個人医院では、管理者が参加しなければ、実質的に外部委員会になる。調査委員会の結論は病院の運営や経営に大きな影響を与える。外部委員は、医療機関の運営や経営に対する責任を負うものではない。責任のない者が、権限を持つと、歯止めがないために、実情を度外視した過大な要求をしがちになる。

 専門的議論の質を高めるために、必要に応じて、外部の当該医療の専門家を招聘する。必ずしも委員にこだわる必然性はない。透明性の確保のために、必要に応じて、中立的立場で社会から信頼されている人物を委員にする。観察者としての参加が期待される。

 弁護士には必要に応じて、法律相談のような形で参考意見を求める。病院の顧問弁護士が、損害保険会社の顧問弁護士を兼務していることがある。これが判断に影響することがあるかもしれないので注意する。重要事項については、複数の意見を求める方がよいかもしれない。

 患者側で活動している弁護士が院内事故調査委員会に加わると、議論の重心が、科学から法あるいは情念の側に移動し、紛争が生じやすくなる。しかも、院内事故調査委員会の理念から外れることになる。“責任境界”の内側に外部の人間が入ることになり、紛争の形がいびつになりかねない。

 医療事故の被害は、傷害や死亡なので、民事事件にも刑事事件にもなりうる。少数意見であったとしても、刑事事件相当であるとの記載を報告書に残せば、その後の紛争に大きな影響を与えることができる。患者側弁護士の一部は大きな団体を形成しており、利害を共有していることに留意すべきである。

 争いになると、多少非現実的でも規範を言い募るのが弁護士の特徴である。逆の立場からも無理な主張をして初めてバランスがとれる。対立が生じると、病院側が譲歩しがちになる。規範より実情を重視する医師が、無理な規範を振り回す法律家を、自然災害のように所与の条件として受け入れるからである。

 争いになると公平性を維持することが重要課題となる。公平性の担保のためには、法廷が優れている。

■調査対象

 調査対象は、細かく規定せずに、状況に応じて変動できるようにする。

 虎の門病院では、表1に示すオカレンスの中の一部が調査委員会(虎の門病院における院内事故調査委員会の名称)で議論されてきた。これまで、その選択基準は一定せずに、過去の経験、時々の状況、時々の委員長の考え方により変動してきた。ただし、事故が原因で、大きな後遺症が残る、あるいは、死亡した可能性がある場合には、すべて調査委員会で議論されてきた。

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