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「三方よし」から始まる“辞めない組織”

2009/10/07

 小児科、産婦人科および救急診療に関する「医師不足」は、どこの医療施設でも多かれ少なかれ頭を抱えている問題だと思います。また、日本外科学会の新会員数はここ数年激減し、「外科医不足」は日本外科学会総会の重要なテーマとしても取り上げられています。

 医師不足は「開業医不足」ではなく、主に「勤務医不足」を意味しています。疲弊した勤務医が病院を辞め、残された勤務医の労働条件がさらに悪化し、また辞めていく…。 数年前、私の医局も退局者数が入局者数を上回り、負の連鎖が始まろうとした時期がありました。そんな状況を危惧し、私は、僭越ながら当時の医局長に手紙をしたためました。

○○先生へ

 いつも大変お世話になっております。先日の医局会でふと思ったことがあります。

 現在、当医局は人手不足であり、派遣病院にとどまらず、附属病院の定員すら満たされていません。その要因は、当然ながら、退局者が入局者を上回っているからです。ある程度の新陳代謝および世代交代は必要でありますが、医局員が少なくなるのは寂しいことです。医局員が増えれば大きな派遣病院も維持でき、そして新たな派遣病院を獲得できるかもしれません。

 この問題を解決するには、またまた当然ですが、入局者を増やし退局者を減らすことでしょう。では、入局者を増やすことと、退局者を減らすことはどちらが大切でしょうか?

 僕は、後者だと考えています。入局するときは誰しも、組織の内実をあまり認識していません。しかし、退局者は、組織の良さも悪さも充分知った上で、去るという判断を下します。つまり、退局者が少ないのは、「良い組織」であることの証だと思います。

 最近の退局者の中に、開業する人はどれだけいるでしょうか?きちんと調べたわけではありませんが、そう多くはないと思います。また、診療所の経営環境も悪化していますから、「儲かるから開業しよう」と考えている人もほとんどいないでしょう。

 ○○教授は、「教授になってから給与とモチベーションが反比例している」と苦笑交じりにおっしゃいます。給与面だけが理由で大学を去っていく人は少数で、モチベーションの問題が大きく影響しているように感じます。

 モチベーションは本来、自分自身で高めていくものなのかもしれません。しかし、組織としてスタッフの幸せを考え、モチベーションを上げる方策を検討することも必要ではないでしょうか?医局長先生のことですから既に対策をお考えかと思いますが、退局する理由と退局先を調査・分析し、改善策を立てませんか? 当医局には研修医入局勧誘担当はいますが、医局員退局防止担当なども作った方がいいのではないでしょうか?

 「言うは易し、行なうは難し」は重々承知しておりますが、感じたことを述べさせていただきました。「より良い医療、より良い経営」を行うには、組織の利益と従業員の幸せのバランスが大切です。

 近江商人の心得に、「三方よし」という言葉があります。「売手によし、買手によし、世間によし」。良い商売をするには皆が満足することが大切ということですが、「病院」と言う組織で良い診療を行うには、患者、病院(経営)、そして医師がHappyである必要があります。

 誠に恐縮かつ僭越ではございますが、よろしくお願い申し上げます。

 
 お叱りの言葉を含め、どのような返事があるかと内心ドキドキしていた中、医局長からは次のような手紙をいただきました。

著者プロフィール

緑山草太(ペーンネーム)●みどりやま そうた氏。消化器外科医。1988年、東京の医科大学を卒業。2000年、栃木県の国立病院の外科部長。2004年に再び東京の大学病院に戻り、医局長を務める。

連載の紹介

緑山草太の「僕ら、中間管理職」
良い診療も良い経営も、成否のかぎを握るのは中間管理職。辛くとも楽しいこの職務は、組織の要。「良い結果は健全な組織から生まれる」と話す緑山氏が、健全な組織を作るための上司の心得を紹介します。

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