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「看護師が見たアメリカの疼痛緩和の現場」(上)
児玉有子(東大医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門)

2009/10/08

こだま ゆうこ氏○2000年佐賀医大大学院看護学専攻(修士課程)修了。虎の門病院での勤務を経て、佐賀医科大学(佐賀大学医学部)看護学科で助手(助教)として学生教育に携わったのち、現職。

 今回、アメリカの緩和医療の現場を訪問する機会を得て、実際治療に当たっているスタッフと議論を行いました。

 これまでにイギリスやフランスでの癌患者の緩和医療や在宅医療・看護を視察し、そこでも現場で治療をしているスタッフと議論を重ねてきました。緩和医療や在宅医療の実際、薬剤の使い方や治療に対する考え方、患者と医療者医療者間のコミュニケーションなどはとても参考になり、その一部は以前MRICでも紹介したところです。こうしてヨーロッパの動向は何となく分かってきましたが、一方、アメリカの状況は不明なことが多かったことから、今回の視察を実施しました。

 アメリカにおける癌患者の緩和ケアの最前線では、体内に埋め込むポンプを利用した緩和ケアが実施されていました。これはイギリスやフランスの視察では見聞しなかった方法で、日本でもまだ取り入れられていません。以下、メイヨークリニックやインディアナ大学癌センター等で実際に治療にあたっているスタッフとの議論の一部を、2回に分け報告します。

【医師に代わり外来診療の一部を行うナースプラクティショナー(NP)】

 癌患者の疼痛ケアを支える医療側チームの話です。今回、4つの病院の疼痛ケアチームと議論しました。そのいずれもが、独自のペインクリニック外来を設けており、ペインクリニック外来のスタッフとしてナースプラクティショナー(NP)を配置していました。しかしその一方、同じ治療を院内(入院)で実施する場合にはNPはその治療には関わらないというのが、各病院に共通したチーム医療のスタイルでした。病棟にNPを配置していないのはペインクリニック科に限ったことではなく、通常のスタイルのようでした。

 NPのペインクリニック外来での役割は、ほぼ日本の外来で医師がしているような、フィジカルアセスメントや処方です。ただし、患者には主治医がいて、NPに負えない症状の変化が生じた際には主治医に相談し、場合によっては主治医が再度診察することもあるようです。医師は患者一人ひとりに十分な外来診療時間を割くことができないため、「NPが時間をかけて患者の話を聞き、生活状況を的確に捉えてくれることで、より有効な外来診療が可能になる」とのことでした。

 なお、私が訪れた外来には一般看護師(RN、日本でいう看護師)は勤務していなかったので、例えば腰椎穿刺をする際の体位保持や患者の不安への援助はNPが実施していました。一方、日帰り手術施設では、患者のいない手術台のシーツ交換や部屋の整備をRNが行っていました。そうしたことは看護助手の人が行うものと想像していましたが、手が空いている人がフォローできることはする、ということはどこでも共通なのだと改めて認識しました。

【癌患者の疼痛ケアにおけるデバイスラグ】

 今回、意見交換をすることができた疼痛ケアチームでは、いずれも体内に埋め込むポンプを使用した疼痛ケアを実施していました。日本でもこのポンプはすでに他の疾患の治療に用いることが承認されており、日本で使える、日本にもある医療機器です。また薬剤は、モルヒネを用いていて、モルヒネは日本でも点滴や内服などですでに癌の疼痛緩和治療で使用されています。しかしながら日本では、このポンプを癌患者の疼痛に対して使用すること、そしてモルヒネをこの投与経路で使用することは、未だ承認されていません。

 どちらもアメリカではメディケイドですら支払いが認められている、非常に有効と思われる治療法であるにもかかわらず、日本で癌患者の疼痛ケアに使用する場合には、未承認医療機器あるいは適応外使用の薬剤を用いた医療となり、保険診療は認められていません。癌患者の緩和医療にも、デバイスラグにより、有効と思われる治療が行き届かないという問題が存在していることが分かりました。


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