日経メディカルのロゴ画像

政権交代で右往左往の医療予算

2009/10/09

 政権交代で新政権は、「埋蔵金」の掘り出し作業の真っ最中です。旧政権が続けてきた不適切だと思われる政策は、八ッ場ダム(やんばダム)問題に象徴されるように、大なたを振るって当然とされています。今回は、政権交代で浮かび上がった医療関係のお金の動きについて話したいと思います。

 まず、最初に取り上げるのは、「出産一時金」問題です。民主党は、出産時に公的医療保険から支給される「出産育児一時金」について、従来の38万円(10月から42万円)に国費からの助成を加えて55万円と大幅に増額することを、衆院選のマニフェストに盛り込みました。

 この10月から実施予定とされた新制度は、昨年8月、舛添要一前厚生労働相が緊急少子化対策として、妊婦が分娩費用の立て替えをしないで済むようにという考えを示したことがきっかけで誕生しました。ですから、必ずしも民主党の新政策とは言えないかもしれません。旧政権の政策でも、八ッ場ダム問題のように、ダメだからダメというのであれば実施しないのでしょうが、この出産一時金については、格別新政権から文句の出るような内容ではありませんでした。

 ところが、問題は起こるときには起こります。新制度に対し、産科開業医らが悲鳴を上げたのです。新しい制度では、従来のように親に一時金が払われるのではなく、医療機関に直接支払われるようになっており、医療機関にそのお金が入るのは、出産の約2カ月後になります。この制度変更の趣旨は、親の経済的な負担を軽減し、出産しやすい環境を作るということですので、親にとっては非常にありがたい話です。

 しかし、医療機関にとっては、ご同慶というわけにはいきません。現行は、親が医療機関に分娩費用を支払った後、健康保険などから出産育児一時金が支給される還付型の制度ですが、新制度は一時金を4万円引き上げ原則42万円とし、それが医療機関に直接支払われます。ところが、一時金は出産の約2カ月後に支払われるので、この制度が実施されると、出産を主に扱っている医療機関では10月からの約2カ月間、現金収入が大きく減少することになります。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

この記事を読んでいる人におすすめ