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救急救命士の医療行為拡大の歴史を振り返る

2009/10/13

医師法第17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定め、医療行為を原則的に医師にのみ認める医師独占主義をうたっています。保健師助産師看護師法などは、例えば看護師などのコメディカルに医師の指示に基づく補助的医療行為を一部認めていますが、体裁としては“例外”を認めるという形です。

救急救命士法も、このような医師独占主義の例外として救急救命士に医療行為を認めています。ただし、その根拠は看護師などとはニュアンスが違っており、患者が緊急事態にあるという点にあります。

 ちなみに、刑法第37条第1項では、「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる」と規定されています。これは緊急避難という例外的な制度で、緊急時の行為は罰されることがないとしています。

 もし、救命行為の一つ一つが緊急避難の規定で許されるかどうかを検討しなければならないとしたら、救急救命士は迅速に救急救命行為をなすことが困難になります。救急救命士法はこのような見地から、救急救命士に許される行為を列挙しています。救急救命士法が認める医療行為を救急救命士が行うのは、正当業務行為として法的に認められています。

 今年の3月2日に、厚生労働省は「『救急救命処置の範囲等について』の一部改正について」という通知を出しました。これにより救急救命処置の範囲などが一部改正され、アナフィラキシーショックで危険な状態にある患者が、自己注射が可能なエピネフリン製剤エピペン」を処方されている場合、救急救命士による投与が可能となりました。今回は、救急救命士に認められている行為の変化を遡り、どのようにして救急救命士の医療行為の拡大が認められるようになってきたかを見てみたいと思います。

 救急救命士法が施行されたのは、20年足らず前の1991年です。このとき、救急救命士には、(1)医師の具体的な指示により心肺停止状態の患者に対してのみ行う「特定行為」と、(2)医師の包括的な指示の下で行う行為の2つが認められました。以下に、その具体的な内容を列挙します。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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