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新型インフルエンザA(H1N1)のワクチン接種回数に関する意見
森兼啓太(東北大学大学院医学系研究科感染制御・検査診断学分野)

2009/10/22

もりかね けいた氏○1989年東大医学部卒業。国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官、アメリカ疾病制御予防センター(CDC) 客員研究員などを経て2009年7月より現職。

 10月16日に発表された新型インフルエンザA(H1N1)ワクチンの臨床試験中間報告、および同日行なわれた専門家会議での合意事項に対して、以下に私見を述べる。

 本試験は20歳から59歳までの200名の健常成人を対象に行なわれた。15μg1回接種群で、HI抗体価40倍以上の人が96人中75人(78.1%)おり、そのほとんどが接種前に比べて抗体価が4倍以上上昇している。

 日本のワクチンと同様の成分を含有するオーストラリアCSL社のワクチンを使用した臨床試験でも、15μg1回接種群で、120人中116人に抗体価40倍以上が得られている1]。従って、健常成人では国産ワクチンの1回接種で十分な抗体価上昇を得ることが期待できると考えるのが合理的である。

 これ以外のことに関しては、本試験の報告からは一切導き出すことができない。基礎疾患を有するもの、妊婦、19歳以下の児童・生徒・学生などについては、別途臨床試験を行なった上で接種回数を決定する必要がある。

 妊婦においては同種移植片である胎児胎盤系を母体からの免疫機構から逃れて発育させるための免疫低下に関する研究が進んでいる。高桑らによれば、黄体ホルモンやヒト絨毛性ゴナドトロピンなどの免疫抑制作用、およびTh1とTh2バランスの変化による細胞性免疫の低下(=ウイルス感染に対して不利に成りやすい)などが知られている2]。

 若年者において多数の接種回数が必要なことは今更述べるまでもない。季節性ワクチンでも小児に対する適切な接種回数は2回であり、今回の新型インフルエンザワクチンでも多くの国で小児を2回接種としている。1回接種となる(であろう)健常成人との境目をどこにおくかは非常に難しい判断になるが、少なくとも現時点では本研究で対象になっていない19歳以下については何も言えない。

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