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『友愛』こそがインフルエンザ感染拡大を防ぐ
木村知(有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役、医学博士)

2009/10/26

 列島を縦断した台風も去った10月10日、関東地方は、すがすがしい運動会日和の晴天に恵まれた。実際私の周辺の地域でも、いくつかの幼稚園、小学校で運動会が開催された。子どもたちが待ちに待った運動会。しかし天気は回復しても、タイミング悪くインフルエンザに感染し、この日に回復が間に合わなかった子どもたちやその親たちにとっては、なんとも恨めしい晴天であったに違いない。このような行事は、子どもたちはもちろん、親にとっても、わが子の成長を目の当たりに実感できる、年に一度のビッグイベントとして、万障繰り合わせてでもはずせないものだ。

 実際、この三連休前の数日間にインフルエンザを発症してしまった子どもたちや、その保護者の最大の懸案事項は、「新型インフルエンザ」に対する恐怖よりも、運動会当日までに、その治癒が間に合うかどうかであった。そして「治癒証明書」もしくは「登校(園)許可書」が当日に間に合うように発行されるのかを、運動会を控えた子どもたちの、ほぼ全員の親から尋ねられた。

 現場で多くの小児を診察しておられる臨床医の先生方も、おそらく同様な事態に直面されておられることと推察するが、現場で診療に当たっているわれわれが最近一番苦慮しているのが、「完治証明書」や「治癒証明書」、「登校(園)許可書」の発行である。

 学校保健安全法(旧学校保健法)第十八条によって、今回の「新型インフルエンザ」が「新型インフルエンザ等感染症」ということであれば第一種感染症とみなされるわけであるから、出席停止の期間基準は「治癒するまで」となる。

 一方、季節性インフルエンザならば第二種感染症に該当することになり、「解熱後二日を経過するまで」の基準にあてはまる。しかし実際現場では「新型」か「季節性」かの診断は不可能であるため、出席停止期間の判断は、結局個々の医師の判断によることになる。

 もちろん、たとえ解熱後二日を経過していても、臨床症状から出席するにふさわしくないと判断されれば、「完治証明書」や「治癒証明書」、「登校(園)許可書」は発行しないわけであるが、現場ではなかなかそうは簡単にことが運ばない場合もある。

 「体育の日」の三日後、いつもの診療所に行くと、早くも冬の気配を感じさせる大混雑になっていた。幸い(?)私は「体育の日」は出勤日ではなかったため、その日の具体的な状況は目撃していないが、スタッフの話では、次々にインフルエンザ様症状の患者さんが押しよせ、ものすごい混雑だったという。そして三日後の出勤日、私は、それらの再診患者さんの対応に追われたのである。

 小児の保護者の行動は、多くの場合その子どもの「熱」によって規定される。最近のインフルエンザ報道のためか、多くの保護者は、まず「熱」が「出た」ことに対して行動する。特に、その診療所のように「年中無休」で診療していると、ちょっとした体温の上昇であっても、すぐ来院してしまう。

 われわれとしては、「コンビニ受診」する保護者がなかなか減らないなか、地域の他の医療機関が年中無休対応や、休日診療対応ができない(しない)現状において、近隣の大病院にこれらの患者さんが少しでも流入しないよう、日々診療しているのではあるが、あまりに軽微な症状で受診する保護者が増えてきてしまうと、さすがに疲労感でいっぱいになってしまう。その都度できるかぎり「不要不急」の受診は控えるように言い続けているわけだが、その地道な啓蒙活動も押しよせる患者さんの数に圧倒され、とてもかなわなくなってきている。

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