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ACR/EULAR新基準:4群12項目のスコアでRAを診断

2009/10/26
宇田川 久美子=医学ライター

ウイーン大学のDaniel Aletaha氏

 米国リウマチ学会ACR)と欧州リウマチ学会EULAR)が新たに発表した関節リウマチRA)診断の新クライテリア(基準)は、腫脹・疼痛関節数炎症マーカーなど4群12項目の一覧表から該当する項目のスコアを合計し、6点以上ならRAと診断するシンプルなものになった。米フィラデルフィアで開催された米国リウマチ学会年次学術集会ACR2009)で行われたRA診断基準のシンポジウムで、ウイーン大学のDaniel Aletaha氏とカナダ・女子医科大学病院のGillian A Hawker氏は、ACR/EULARの共同策定チームを代表して、新基準の概要とその策定プロセスを解説した。

 この新基準は、フェーズ1、フェーズ2、最終フェーズという3つのステップを経て決定された。フェーズ1は、決定的な特徴がない発症早期において、診断のカギとなる要素を検出するプロセスである。これには多数の早期患者のデータが必要で、欧州の9つのコホートから、症状発現からの経過が3年以内の診断未確定・炎症性関節炎(Undifferentiated Inflammatory Arthritis)を有する患者3115例のデータが集積された。

カナダ・女子医科大学病院のGillian A Hawker氏

 タスクフォースでは、まず、これらの患者の年齢・性別、ESRCRP腫脹・疼痛関節数、関節部位ごとの腫脹・疼痛の有無、関節病変の対称性、HAQスコア、リウマトイド因子RF)など数10項目の因子を独立変数とする単変量解析を行い、関節炎の転帰(慢性的な病態や障害へ進展するリスク、速やかな抗リウマチ薬投与を必要とする状態へ進展するリスク)と関連する因子の抽出を試みた。

 しかし、関節炎の病態は多彩であり、たとえば、関節腫脹を規定する因子と関節疼痛を規定する因子を単純に同じ土俵で比較することはできない。そこで、抽出された10数項目の因子が関与する関節炎病態の各側面の「重み」を主成分分析によって求めたうえで多変量解析を行った。

 その結果、腫脹や疼痛の存在、炎症マーカー(特にCRP)の異常、抗シトルリン化ペプチド抗体ACPA)やRFの陽性は関節炎の転帰予測因子であること、他方、関節病変が対称性であることは転帰に重要ではないことなどが示された。

 次のフェーズ2では、フェーズ1の結果を踏まえ、ACRとEULARの20数人の専門家による意見の統一が図られた。そのなかで、診断未確定の炎症性関節炎をRAと診断するためには、(1)少なくとも1関節以上に関節腫脹が存在すること、(2)RA以外の診断がより適切と考えられる徴候や症状ではないこと、の2点が必須であるとされた。

 次に、血清学的因子、関節病変、滑膜炎持続期間、炎症マーカーという4つの領域(ドメインまたはクライテリア)が同定され、個々の領域について、さらに複数の分類(カテゴリーまたはサブクライテリア)が設けられた。

 血清学的因子については、ACPAとRFの陽性/陰性と力価により3分類、関節病変については疼痛関節・腫脹関節の数と分布によって6分類とされた。滑膜炎の持続期間は超早期での診断を視野に入れ、フェーズ2では4週以内、4~8週、8週以上という3区分にすること、炎症マーカーについては正常・異常の2つに分類するという仮の枠組みが提唱された。

 この仮の枠組みに基づくと、RAを疑う関節炎患者の病像は、3(血清学的因子)×6(関節病変)×3(滑膜炎持続期間)×2(炎症マーカー)の計108パターンに分類される。タスクフォースでは、108すべてのパターンに対する専門家の重視の度合い(その病像がRAであることを疑う強さ)を分析する手段として、「1000Minds」というコンピューター・ソフトウエアを用い、上記4つの領域と個々の分類の臨床的重要性を数値化し、使い勝手などを考慮して、上記の仮の枠組みに若干の修正を加えた。

表1 新RAクライテリアのスコア

 最終フェーズでは、フェーズ1とフェーズ2の結果を総合し、分類をできるだけ簡略化したうえで、推定されるリスクの大きさ(RAらしさを疑う度合いや、将来的にRAとの診断に進展する可能性の高さ)に応じたスコア(重み)を設定した。

 このようなプロセスを経て、表1に示すACR/EULAR新基準が完成した。この基準に照らし、スコアの合計が6点以上である症例は、「RA確定例(definite RA)」と診断されることになるという。

 Hawker氏は今後の課題として、この基準によるRA診断が実際の転帰と相関するか否かの検証と、「RA疑い例(probable RA)」の基準を設けるための研究の2つを挙げていた。


 なお、Hawker氏は、新クライテリアに際して用いられた用語の定義についても示していた。その一部を下記に示す。
中・大関節:肩関節、肘関節、股関節、膝関節、足関節。
小関節:MCP関節、PIP関節、第2~第5MTP関節、第1IP関節、手関節。
血清学的因子:陰性=正常上限値以下、陽性・低力価=正常上限値の1~3倍まで、陽性・高力価=正常上限値の3倍より大。
滑膜炎持続期間:評価実施時に存在する滑膜炎に関して、患者自身の報告に基づく滑膜炎症状(疼痛、腫脹、圧痛)の持続期間。
炎症マーカー:正常/異常の基準値は各施設で採用しているものに準ずる。

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