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医師がワーキングプアになった理由

2009/10/27

 「医療崩壊阻止のために、医師増員は必要最低条件だ」―私がそう主張すると、必ず、医師の待遇が悪化することを懸念して医師増員に反対する意見が寄せられます。先日の本ブログ「一体どこに医師が余っているというのか(9/30)」にも、「民主党が医療費を増額するとしても、それは過酷な介護職の環境整備に向けてであり、現在の勤務医の待遇改善にはならない。(中略)本田先生は増員だけでなく待遇の件も訴えておられますが、現実進行しているのは増員だけで、行く末はワーキングプアではないですか?」(gekaiさん)という意見をいただきました。

 私は医師、特に急性期の医療現場で働く勤務医の待遇改善は、医療安全のためにも当然不可欠な要素と考えています。しかし、いつも困ったことに感じるのは、時間給を見れば既にワーキングプアとさえいえる状態に追い込まれている勤務医自身が、医療制度や経済について正確な知識を持ち、改善のために自ら行動を起こそうとしないことです。実は私を講演に呼んでくださるのも、医療に関係のない市民団体などが多く、大学医学部、病院、学会など、肝心の現役勤務医が関係する団体は少ないのが実情です(もちろん、勤務医の多くは忙しすぎて、とても講演に足を運ぶ余裕はないのですが)。

 私は、日本の医師不足問題の背景には、医療者自身が医療費増額を端からあきらめていて、自分たちの既得権益を優先する余り、本来は必要な医師増員にさえ反対してきた歴史があると考えています。しかし、実際に医師数を抑制してきた結果、現在の日本の医師の労働環境は世界と比較してより良い状態になったといえるでしょうか。

 ここで、日本の医療機関が受け取る医療費と、その他の物価を比べてみましょう(表1)。

著者プロフィール

本田宏(済生会栗橋病院院長補佐)●ほんだ ひろし氏。1979年弘前大卒後、同大学第1外科。東京女子医大腎臓病総合医療センター外科を経て、89年済生会栗橋病院(埼玉県)外科部長、01年同院副院長。11年7月より現職。

連載の紹介

本田宏の「勤務医よ、闘え!」
深刻化する医師不足、疲弊する勤務医、増大する医療ニーズ—。医療の現場をよく知らない人々が医療政策を決めていいのか?医療再建のため、最前線の勤務医自らが考え、声を上げていく上での情報共有の場を作ります。

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