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新型インフルエンザワクチンの接種回数:欧州の判断
森兼啓太(東北大学大学院医学系研究科感染制御・検査診断学分野)

2009/10/30

もりかね けいた氏○1989年東大医学部卒業。国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官、アメリカ疾病制御予防センター(CDC)客員研究員などを経て2009年7月より現職。

 2009年10月16日、厚労省で行なわれた専門家による会議において、新型インフルエンザワクチンの接種回数に関する議論が行なわれた。2回接種を前提としていた本ワクチンに関して、国立病院機構の4施設の医療従事者を対象に実施した本ワクチン接種後の抗体価調査から、1回の接種でもそれなりの抗体価上昇がみられることが判明した。

 流行が拡大している今、限られたワクチンをできるだけ多くの優先順位の人々に早めに接種すべく、健常成人(大部分の医療従事者がこれに含まれる)の接種回数を2回から1回に減らすという合意に至ったのは妥当な線であろう。

 ところが16日の会議では、この抗体価の上昇は季節性インフルエンザであるAソ連型(新型インフルエンザと同じH1N1亜型)への曝露によるものであろう、それなら妊婦や基礎疾患を有する人、19歳以下の成人もある程度の免疫を持っているはず、と推論に推論を重ね、妊婦や基礎疾患を有する人、13歳以上20歳未満の人をすべて1回接種でよいとする方向性を打ち出してしまった。

 これらの人々におけるワクチンへの免疫応答に関するデータはない。しかもこれらの集団への接種はまだ差し迫っておらず、ここで一刻を争って回数を決定しなければならない状況にはない。こういった施策決定方法に強い疑問を持った足立信也政務官が19日急遽会議を開き、筆者も含めた数名からさらに意見聴取を行ない、健常成人以外の接種回数に関する変更(2回接種から1回接種)を白紙に戻したことはすでに報じられた通りである(2009.10.22「新型インフルエンザA(H1N1)のワクチン接種回数に関する意見」)。

 さて、その翌日には中国から新型インフルエンザワクチン接種後の抗体価上昇に関するデータが発表され、12歳から17歳までの550人を対象としたスタディでHI抗体価40以上を全体の97%に認めたという。そしてこのデータが発表された3日後の欧州医薬品局(EMEA)のワクチンに関するUpdateが注目されていた。

 この委員会では、欧州で認可されている3つの新型インフルエンザワクチン、Celvapan、Focetria、Pandemrix(製造者はそれぞれバクスター、ノバルティス、グラクソ・スミスクライン)の3つについて検討した。これらのワクチンは鳥インフルエンザA(H5N1)で得られたデータをもとに認可されているため、ほとんどすべての人が免疫を持たないと考え、2回接種が基本であった。

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