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杞憂であればよいが、欠品問題は続発しないか?
日吉和彦(財団法人化学技術戦略推進機構(JCII)研究員)

2009/11/04

 日頃、日本の新規医療機器開発の活性化を念じて微力ながら活動をしておりますが、米国を主とする輸入医療機器の欠品問題に対して、心配が募るこの頃です。このところMRICメルマガではインフルエンザ対策の議論が大勢ですが、欠品問題の不安感を共有していただければと思います。

 まず、先般の骨髄フィルター騒動については我が国の医療行政の不備の解析は進んでいますが、なぜ欠品になったのかについて、米国の事情についてももう少し立ち入っておいた方が良いのはないかと思い、振り返ってみます。

 米国の業界内では周知のことでしたが、バクスター社の血液フィルター関連事業は長らく低収益に苦しんでおり、一昨年ついに手放すこととなりました。血液フィルター事業をよく知る競合会社に事業買収してもらえれば良かったのですが、買手は医療機器産業に日の浅いいわばベンチャーファンドに近いもので、大企業ではできなかったコストカッティングを行えばそれなりに儲かるであろうとの読みでした。早速生産拠点を米国内からカリブ海の島国に移しました。

 FDAから見れば、国産品から輸入品に変わるわけで、所定の申請と審査の手続きが必要です。といっても新規のものではありませんから、我が国の審査とは異なり、取るべきデータとそれに要する費用と時間はきっちり見積もることができます。つまり生産供給など事業計画がきちんと立てられます。

 しかし、この新人経営者は、不幸にして薬事規制への対応にどれだけの時間がかかるものか考慮が及ばなかった様です。現場の技術者の尻をピシピシ叩けばいかようにも時間短縮が可能と思っていたのかもしれません。それから後は、既にMRICで詳しく報道済みの欠品騒ぎが日本で起きることとなりました。

 それほど立ち入った話ではないのですが、ここで押さえておきたいポイントには十分と思われます。米国では医療機器はれっきとした産業です。大まかに年間総売上年800億ドル、簡単のため1ドル=100円として、8兆円の産業領域です。他の産業分野と同様に厳しい競争の元で優勝劣敗の変遷はダイナミックであり、それこそが米国が医療機器で世界を圧倒する競争力を持つゆえんです。そこでは不採算部門が容赦なく切り売りされます。今日大手と云われる企業も10年前には驚くほど小さな会社で、主にM&Aによる急成長ぶりには目を見張るものがあります。

 しかし、そのように成功した会社は、有望な新規医療機器を開発したベンチャーなどを熱心に買収するのであり、商品として老齢化し低収益のものなどには目もくれません。成熟低成長事業を買おうと云う者は、それによってなおかつ収益が上げられると思うものだけです。つまり、今回の骨髄フィルターと同様なことが起こりうる可能性が、米国医療機器ビジネスの社会では、いくらでもあるということです。

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