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医療以外でも「国から独立した機関による事故調」を求める動き

2009/11/10

 最近は医療事故調の制度設計問題についての話題がすっかり下火になり、あまり議論を耳にしなくなりました。今回は、医療事故調ではなく、鉄道事故やエレベーター事故といった医療以外の事故の調査機関についてですが、興味深い新聞記事に出合ったのでご紹介したいと思います。

 11月5日付毎日新聞は、「『国から独立した機関で』遺族ら設置訴え」と題して、鉄道事故などの遺族の間で、国から独立した事故調査機関の設置を求める動きが広がり始めていることを報じています。

 まず最初に紹介されているのは、2005年3月に4人の死傷者が出た東武伊勢崎線の踏切事故の遺族です。この事故で当時75歳の母親を亡くした54歳の女性が、先月21日に、国交省の外局の運輸安全委員会を訪れて、独立調査機関の設置を求める意見書を提出したといいます。その動機は、JR福知山線脱線事故の調査報告書漏えい問題で、中立・公正な調査機関の必要性を強く感じたためだそうです。

 次に記事が紹介しているのは、06年6月に、東京都港区で起きたエレベーター事故で犠牲になった当時16歳の高校生の57歳の母親です。国交省や警視庁などを何度も訪ね歩いたものの、警視庁では「捜査中」と対応され、国交省は国交省で「警察が調べているので詳細は分からない」との対応で、当事者なのに蚊帳の外に置かれたようだったといいます。

 これらの話には、私のところに、医療法律相談に訪れる相談者の姿がオーバーラップします。遺族の多くは、事故の実態を知りたいといいます。この新聞記事に報じられているように、相談者の中には警察を何度も訪問したという方が結構おられます。しかし、答えは新聞記事のケースとほぼ同じ、「今捜査中です」の一点張りです。

 保健所に行っても「警察が調べているところなので、何とも言えない」。次に司法解剖した法医学者を訪れると、「捜査に関係するものですし、まだ報告書ができていないのでコメントできません」。このように対応も類型的です。誰かがたらい回ししているというわけではないですが、遺族はたらい回しと同じような状態の中で悩むしかない現状があります。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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