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米下院で医療保険改革法案が可決―国民皆保険に一歩前進?

2009/11/13

 米下院が11月7日の本会議で、オバマ政権の最重要課題の一つである医療保険改革法案を賛成多数で可決しました。国民皆保険を目指すオバマ大統領のヘルスケア改革を実現する法案の成否は、これで舞台を上院に移します。

 オバマ大統領は「年末までに成立した法案に署名することを期待している」と意気軒昂ですが、下院の可決は賛成220票に対して反対は215票と僅差で、民主党から39人が反対に回り、共和党の1議員が賛成票を投じました。薄氷の成案ですから、上院での可決がそう簡単にいくようには思えません。

 上院の議員定数は100人で、民主党は無所属2人を含む60人の勢力を有します。法案が可決されるためには60票以上が必要で、1人の離反者が出るだけで可決は危うくなります。仮に、下院と同様に民主党議員の一部が反対票を投じたとしたら、この法案は否決される可能性があります。そうなれば、オバマ大統領は金融規制改革やアフガニスタン増派などの他の重要な問題でも求心力を失うおそれがあります。

 ヘルスケア法案の一番の焦点は、事実上の国民皆保険を目指す公的保険の新設ですが、これに反対する多くの抵抗勢力が存在します。わが国では公的な健康保険のカバーが薄くなると民間の生命保険などが儲かるだけだという形の批判が出ますが、米国では逆に、政府が新しく公的保険を作ると、民間企業と競合になり民業を圧迫するとして、生命保険会社や関連する製薬会社などが反対し、大々的にロビー活動を行っています。

 また、3000万人から4000万人にも及ぶという米国の無保険者を公的保険でカバーするとすれば、新たな財政支出を要するのではないかという議論が必ず出てきます。公的保険の新設によって財政赤字がさらに増大する、また増税によって国民が苦しむことになるという反対論が力を得て、皮肉なことにメディケアメディケイドの受給者の中にもプラカードを持って反対デモを行う人がいます。反対論者はメディケアやメディケイドの経費節減、合理化で給付が減らされることを危惧しているようです。

 このような様々な反対論を考えると、民主党内の意見調整は難航するだろうとみられています。今回の下院の可決も、新たな公的保険では中絶手術を保険の対象外にするという条項を盛り込んで、宗教上などの理由から中絶に反対する議員を賛成派に何とか取り込むなど、ぎりぎりの綱渡りでした。上院の審議も決して楽ではなく、オバマ大統領が目標とする年内の法案成立は困難との見方が強いようです。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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