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ワクチン接種優先順位と接種回数を考える
新型インフルエンザから子供たちを守ろう!
上昌広(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門准教授)

2009/11/14

かみ まさひろ氏○1993年東大医学部卒業。99年東大大学院医学系研究科修了。虎の門病院、国立がんセンター中央病院を経て2005年10月より現職。

※今回の記事は村上龍氏が編集長を務めるJMM (Japan Mail Media)で11月4日に配信された記事(「『絶望の中の希望~現場からの医療改革レポート』第43回 新型インフルエンザから子供たちを守ろう!~ワクチン接種優先順位と接種回数を考える~」)をMRIC用に改訂し、転載させていただきました。

 新型インフルエンザワクチンの接種が始まりました。ワクチン不足は顕著で、全国各地で混乱が生じています。一方、国内外から様々な情報が寄せられ、主要な問題点も明らかになりつつあります。

医療従事者に対するワクチン不足
 我が国のワクチン不足は深刻です。厚労省が公表しているワクチン優先接種対象は、合計で5,400万人。最優先は医療従事者で、100万人となっています。

 医療従事者への優先接種は、10月19日より始まりましたが、医療現場は、これをめぐり大混乱です。就業している看護師だけでも126万人いて、絶対数が足りません。例えば、千葉県の400名以上の医師、3000名以上の医療従事者が勤務する某大病院では、新型インフルエンザワクチンの割り当ては、わずか140名分でした。同規模の都立病院に勤める友人からは、新型インフルエンザワクチンの入荷は250人分だったと聞きます。

 また、厚労省は、「インフルエンザ患者の診療に直接従事する」医療者を接種対象に指定しましたが、この区別は困難です。新型インフルエンザは潜伏期にも感染するため、全ての医療者が直接対峙することになります。病院は、接種対象者の選定でパニック状態です。

 医療従事者に優先的にワクチンを接種するのは、病院機能を維持するためです。実は、今回の接種は、この目的にも適っていません。皆さんが所属する組織にも当てはまるでしょうが、日常業務を遂行するには、事務方の存在が必須です。

 病院なら、受付や会計が当てはまりますが、彼らは恒常的に患者に接し、感染するリスクがあります。もし、彼らが新型インフルエンザで倒れれば、大問題です。ところが、彼らは厚労省の指定する優先接種対象ではありません。

 そもそも、病院の機能維持が目的なら、接種対象は院長が決めればいいのではないでしょうか?病院は多種多様です。ワクチンの絶対量が足りないまま、厚労省が箸の上げ下ろしを指図するため、大きな問題が生じています。

重症化しやすい子どもたちを守れ
 新型インフルエンザワクチンの一般人への接種が、10月30日に始まりました。その対象は、妊婦と基礎疾患がある人です。ところが、ここにきて小児への接種が問題となっています。

 10月30日、厚労省は累計患者の7割以上が14才以下の子どもたちであったことを公表し、日本小児科学会は、新型インフルエンザは季節性インフルエンザより重症化しやすいため、健康な子どもたちに早期にワクチンを接種するように要望しました。特筆すべきは、これまで重症になったと報告されている小児の3分の2は持病がないことです。

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