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メディカルスクールへの入り方

2009/11/18
高橋孝志

 前回は、アメリカのメディカルスクールのシステムと、そこで求められる人材について述べました(2009.9.30「メディカルスクールにみるアメリカ医学教育の目的とは」。今回のテーマは、実際にアメリカでメディカルスクールに入学するためのプロセスです。

第一関門となるMCAT
 まず、アメリカで医師になるための第一歩ともいえるのがMCAT(medical college admission test:通称エムキャット)です。これはメディカルスクール入学申請に必要となる全国統一国家試験で、AAMC(Association of American Medical Colleges:アメリカ医科大学協会)が運営しています。いくつかの例外は存在するようですが、すべてのメディカルスクールが入学志願者に対してMCATの受験を要求していると考えてよいでしょう。

 私が受験した当時はペーパーベースでのテストでしたが、現在ではコンピューターベースとなりました。しかし、出題傾向やテストの構成は変わっていないようです。アメリカでは、MCATに限らず多くのテストがコンピューターベースに切り替わりつつありますが、その利点として受験者の都合のよい場所、都合のよい日に受験できることが挙げられます。自分の都合のよいテストセンターに自分で予約を入れて試験を受けるのですが、問題はランダムに出題されるため、受験者によって問題の内容は違います。

 MCATはPhysical Science、Biological Science、Verbal Reasoning、そしてWriting Sampleからなる4セクションで構成されます。テスト形式は選択および記述式で、結果は各セクションの点数と4セクションの合計点数で示されます。各セクションの内容を簡単に説明すると、Physical Scienceは物理と無機化学、Biological Scienceは生物と有機化学、Verbal Reasoningは読解力、Writing Sampleは小論文形式による記述力が試されます。Physical ScienceとBiological Scienceは、ジャーナルなどの文章が提示され、そこから出題されるため、MCATを受験するに当たっては読解力を鍛えることが最も重要です。

 これは私の個人的な印象になりますが、試験中の限られた時間内に読まなくてはいけない文章量がとにかく多いため、文章を読むことと問題の内容を理解することにかなりの時間を費やさざるを得ませんでした。そのため、基礎となる生物や化学、物理の知識そのものよりも、英語の速読力と読解力を試されているような気すらしていました。

 その裏付けというわけではありませんが、AAMCが公表した2008年度のデータによると、MCATの合計得点(45点満点)の平均点が最も高かったのは数学・統計学専攻者で30.2点、2位は物理や無機化学系専攻者で29.8点、3位は人文科学専攻者で29.3点、4位は社会科学専攻者で28.2点だったそうです。医学に最も近いと思われる生物学専攻者の平均点は27.9点でした。このことからも、生物や化学、物理といった理系の内容が問われるMCAT受験において、必ずしも理系が有利であるとは言い切れないようです。さらに、メディカルスクールに合格した受験者だけのデータを見ると、数学・統計学および物理・無機化学系専攻者が32点、わずかに差を付けて人文科学専攻者が31.2点、社会科学専攻者が31.0点と、専攻による順位は変わりませんでした。この結果を見ても、MCATでは基礎となる理系の知識そのものよりも、まずは文章の読解力と分析力が試されているといえるのではないでしょうか。

著者プロフィール

高橋 孝志

ミネソタ大学放射線科研修医

ワシントン州ワシントン大学で電気工学科学士および修士を取得。2008年にウィスコンシン医科大学を卒業後、ミネソタ州Hennepin County MedicalCenterにて、スーパーローテーション方式である Transitional Yearインターンとして勤務。2009年7月より現職。

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