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混合診療禁止と医薬品ネット販売禁止に共通する「違憲行政」

2009/11/24

 混合診療禁止を是認した東京高裁判決については、10月6日の本ブログで(「混合診療判決と長妻コメントの“冷たさ”」)、医薬品ネット販売禁止をめぐるエピソードについては、11月17日の本ブログで(「薬事法改正に反撃―日本の医薬品を海外通販で“逆輸入”」)取り上げました。

 それらにいただいたコメントは、概ね混合診療禁止の厚生行政を追認した形の東京高裁判決を是とし、また、医薬品ネット販売禁止をめぐるエピソードについては、これを混合診療禁止の議論と結びつけるのは非論理的だとのご批判をいただきました。

 今回は、これらの議論に加え、7月28日の本ブログでお話しました病気腎移植再開の話題(「逆風、順風が入り乱れる中、徳洲会が病気腎移植を再開」)を交えてお話しします。

 私はここで、三題噺風に3つの話題を結びつけようとするつもりはありません。以前から行政法の現代的な問題に積極的に取り組んでいる行政法学者で中央大教授の阿部泰隆氏が、これらのテーマについて単刀直入に問題点を指摘しているので、その論旨をご紹介しながら、通底する現代医療行政の病根について論じたいと思います。

 阿部教授は、10月26日付日本経済新聞の「経済教室」で、今回の混合診療禁止判決と、医薬品ネット販売禁止、病気腎移植の禁止こそ、官僚依存行政による違憲立法、違憲行政運用と喝破し、新政権の掲げる「脱官僚依存」は、法案の作り方、国会審議、行政運営、法廷での主張にまで普遍的に広げるべきであるとしています。

「全額負担」の法的根拠はどこに?
 ところで、わがブログにコメントを寄せいていただいたほぼすべての方に、今回高裁判決が出た混合診療事件の原告患者が、本来保険の効かない保険外治療まで保険適用にせよと訴えているかの誤解があるように感じましたが、原告の主張は決してそうではありません。

 阿部教授が強調するのも同様で、保険適用の治療を受けて、さらに自由診療による治療を受けた途端に、「本来保険で認められている治療の治療費まで、全額負担せよ」というのはどのような法的根拠があってのことか、という点です。

 そもそも「混合診療の禁止」といっても、法文上定義もされていなければ、禁止の範囲もはっきりしません。確かに健康保険法86条に定められた保険外併用療養費制度や療養担当規則には、保険診療を行う場合は保険で認められている療法に限るという規定があるものの、結局は「法の欠缺(けんけつ)」といわれる明確なルールのない状態です。法治国家としては、非常にお寒い状況と言わざるを得ません。

 大病した時に備えて、日々一生懸命に保険料を支払っていたものの、運悪く病気にかかり、肝心の保険を利用するときになって、ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグの問題に直面したため、やむを得ず保険未収載の治療を受けた途端に、「保険治療分も全額自己負担せよ」というのは、単に酷薄だという問題ではなく、まさに阿部教授のご指摘の通り、憲法で定められた財産権の保障を無視した人権侵害です。決して官僚が筆先で生殺与奪を握ってよい問題ではありません。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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