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ようやく広がり始めたレセプト開示

2009/11/24

 前回は、私がレセプトなどの医療費の明細書の開示を求めてきた理由について書きました。今回は、私が中央社会保険医療協議会(中医協)の委員になってから、どのように開示が進んできたかをお話したいと思います。

 医療機関の窓口で医療費の自己負担分を支払う際に受け取る領収書は、(ア)自己負担の合計額だけが書かれたもの、(イ)投薬量や処置料、保険内や保険外、などの小計のわかるもの、(ウ)レセプト並の個々の明細と数量や単価が書かれた“明細書”-の3種類に分けられます。

 厚生労働省は1981年から、都道府県知事を通じて全国の医療機関に、上記の(イ)に該当する医療費の領収書を発行するよう通知等で指導してきました。しかし、それから25年近く経つ2005年末に労働組合連合が行ったアンケート調査では、(イ)の発行は病院で90%、診療所で36%にとどまっていました。(ア)のような合計額だけの領収書さえ渡していない診療所も8%ありました。

 医療機関は医療費の7割を支払う健康保険組合などに対しては、処置名・薬名・検査名等をすべて記したレセプトを、医療費を請求するための“明細書”として発行しています。しかし3割を支払う患者本人に対しては、このように発行してきませんでした。私が患者への“明細書”の発行を求めてきた理由は前回も書きましたが、そもそも自己負担分を支払うモノに対して明細書を発行することは、社会通念上、理屈抜きで当然のことだと言えます。

初めての改定では努力義務にとどまる
 私にとって初めての診療報酬改定の決定は2006年2月でした。私は中医協委員に就任して10カ月の間、できる限りの発言をしたつもりでしたが、日本医師会などの強い抵抗があり、結局その際の改定では明細書付きの領収書発行の義務化は実現しませんでした。最終的には、私が求める上記(ウ)の“明細書”と、当時の診療所の過半数で発行されていた(ア)の領収書の間をとるように、(イ)の「小計が分かる領収書」の発行が義務付けられるという妥協策で決着が図られてしまったのです。

 私が求めていた(ウ)の“明細書”に関しては、「患者から求めがあったときは、保険医療機関等は、患者にさらに詳細な医療費の内容が分かる明細書の発行に努めるよう、通知で促すこととする」と努力義務が付記されるにとどまりました。また、その後に出された通知では、発行の際にその手数料を徴収してもよいとする旨も記載されてしまいました。

 それまでは、希望しても発行されないことが一般的でしたから、レセプト並み明細書の開示への道が開かれたという意味では画期的であったと評価できるかもしれません。しかし、そのままでは、明細書の発行が広がっていくとは思えませんでした。そこで私は2008年度改定に向けて、さらに2年間、改めて明細書発行を求め続けました。その結果、2008年改定が決定する1カ月ほど前の1月に厚労省が出した骨子案では以下のような記述となりました。

著者プロフィール

勝村久司(中央社会保険医療協議会委員、高校教諭)●かつむら ひさし氏。1990年、陣痛促進剤を使った出産で長女を失い、その医療裁判を機に市民運動に取り組む。「医療情報の公開・開示を求める市民の会」世話人。

連載の紹介

勝村久司の「『患者本位』とは何か」
医療事故や薬害の被害者団体などで市民運動を続ける一方、さまざまな職種の医療関係者とも交流を続つ勝村氏が、医療に強い関心を持つ「一般市民」の視点で本来あるべき「患者本位の医療とは何か」について語ります。

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