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目指すは「パイの取り合い」からの転換―中医協委員就任にあたって
嘉山孝正(山形大学医学部長)

2009/11/25

中医協委員として目指す方向
 私は先月、診療報酬を決定する中央社会保険医療協議会(中医協)の委員に新任された。大学医学部からの就任は初めてのことである。

 今、引き起こされている医療崩壊の責任の一端は中医協の医療費の決めかたにあったのではないかと考えている。中医協で今まで行われた議論は、パイ(医療費総額)を開業医、勤務医、それぞれの立場で取り合う議論に終始していたからだ。この間、本当に必要なところに医療費が使われず、医療崩壊が起こった。

 私は、これからは今までの様に限られたパイを取り合う議論ではいけないと考えている。そして、中医協は特定団体の利益のためではなく、国民が健全な医療を受けられる医療費配分を決定する機関であるべきである。私は、一刻も早く中医協を本来の姿に戻すための努力を惜しまないつもりである。そのためには、まず、医療再生のための基本方針を作ることが必要である。そして、その基本方針に沿った形で医療費の配分をしていきたいと考えている。

大学医学部から選ばれたことの意義
 大学病院は、今まで医療の不採算部門を担ってきた。それなのに、社会保障費も国立大学への運営費交付金も年々削れられた結果、大学が疲弊し、大学病院を含む病院勤務医が疲弊し、医師の立ち去りと医療崩壊を生んでしまった。

 医療は有機的な連携で成り立っている。大学病院あっての勤務医であり、勤務医あっての開業医であり、そして開業医あっての大学病院である。すべてがつながっているのだ。しかし、大学医学部崩壊は医療崩壊全体の引き金になり、それにより医療の有機的連携が切断され、泥沼の医療崩壊のスパイラルに陥ってしまった。

 私はこの問題の根本は医療費削減と考えている。そして、現状ではその弊害を、医療費の配分に関して発言権を持たない大学医学部が多くを背負わされている。そのような中で、大学医学部が「発言権」を持つことは、医療崩壊の防止の観点からも、重要な意味を持つと考えている。この点は大学医学部に籍をおく私が委員に就任した意義の一つである。

 医療の有機的な連携を守り、医療崩壊を断ち切るために重要なのはパイの取り合いではなく、医療費自体の増額なのだ。私は、大学病院から選ばれた委員として、この点を何度も繰り返し主張していきたい。

勤務医重視・病院重視の流れのなかで
 来年度の診療報酬改定では勤務医重視・病院重視の流れが強まる見通しである。先日の会議でも「大病院に厚く」という方針が出された。しかし、私はこの点に関しては慎重に行うべきであると考える。なぜなら、東京から見れば中小規模の病院でも地方では中核病院となっているからだ。下手をすると、同じ医療行為をしているのにハコの大きさによって医療費が違うということにもつながりかねない。

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