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JAMA誌から
血管疾患リスク推定にトリグリセリド値は不要
総コレステロールとHDL-cのみでOK、空腹時の採血も不要

 集団ベースで血管疾患のリスク予測を行う場合、必要なのはHDL-コレステロール(HDL-c)値と総コレステロール値の組み合わせ、またはアポリポ蛋白質Bとアポリポ蛋白質A1の組み合わせのいずれかであり、トリグリセリド値は不要―。そんな研究結果が、英Cambridg大学のEmanuele Di Angelantonio氏らによってJAMA誌2009年11月11日号に報告された。

 血中脂質値とアポリポ蛋白質のそれぞれ、またはそれらの組み合わせと心血管リスクの関係については、これまで、信頼できる定性分析が行われていなかった。有効なスクリーニング法の開発や、治療における意思決定において、正確なリスク評価法の必要性は高い。

 そこで著者らは、過去に行われた前向き研究から、血中脂質値、アポリポ蛋白質値に関する情報と、心血管イベント発生の有無に関する情報を抽出し、リスク評価において重要な指標はどれかを明らかにしようと考えた。

 主に欧米で行われた前向き研究の中から、血管疾患歴のない人々を登録し、集団ベースで死因別死亡率または心血管イベント発生率を報告しており、ベースラインで脂質レベルなどを測定、心血管危険因子に関する情報を収集し、1年以上追跡を行っていた68件を選出。30万2430人に関する情報を得た。

 68件のうち22件(9万1307人)がアポリポ蛋白質Bとアポリポ蛋白質A1を測定しており、8件(4万4234人)が直接測定LDL-コレステロール(LDL-c)値を記録していた。

 登録時の平均年齢は59歳、43%が女性、60%が西欧在住者、32%が北米在住者だった。

 個々の測定値の関係を調べたところ、トリグリセリドの自然対数値(loge)、HDL-c値、非HDL-c値の間に相関が見られた。特に強力な関係が見られたのは、非HDL-c値とアポB値、非HDL-c値と直接測定LDL-c値、HDL-c値とアポA1値という組み合わせだった。

 279万人-年の追跡で、8857人に非致死的心筋梗塞、3928人に冠疾患死亡、2534人に虚血性脳卒中、513人に出血性脳卒中、2536人に分類不能脳卒中が発生していた。

 ベースラインの脂質値とアポリポ蛋白質値のそれぞれについて、1SD上昇当たりのハザード比を求めた。1SDの値は以下の通り。トリグリセリドは0.52 loge、HDL-cは15mg/dL、非HDL-cは43mg/dL、アポリポ蛋白質A1は29mg/dL、アポリポ蛋白質Bは29mg/dL、直接測定LDL-cは33mg/dL。 

 1000人-年当たりの冠イベント(非致死的心筋梗塞と冠疾患死亡)の発生率は、ベースラインのトリグリセリド値が最低3分位群では2.6、最高3分位群では6.2、HDL-cではそれぞれ6.4と2.4、非HDL-cでは2.3と6.7だった。

 年齢、性別、収縮期血圧、喫煙歴、糖尿病、BMI、分析対象以外の脂質測定値(たとえばトリグリセリドと血管疾患リスクの関係を分析する場合には、HDL-c値と非HDL-c値を調整に加える)で調整し、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比を推定した。

 ベースラインでトリグリセリド値が1SD高かった場合の冠イベント発生の調整ハザード比は、0.99(95%信頼区間0.94-1.05)。空腹時の採血だった患者のハザード比は1.02(0.95-1.09)、それ以外の採血だった患者では0.92(0.82-1.03)で、空腹時測定値かそうでないかは結果に影響しなかった。そのほか、虚血性脳卒中の調整ハザード比は1.02(0.94-1.11)、出血性脳卒中では1.04(0.82-1.32)、分類不能脳卒中では1.03(0.94-1.13)となった。

 この結果は、トリグリセリド値が冠疾患の独立した危険因子ではない(HDL-c、非HDL-c、その他の標準的な危険因子で調整すると影響は小さくなる、または消失する)ことを意味する。

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