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マネジドケアで医師の裁量は尊重されるか

2009/11/27
河合達郎

 私が現在勤務するマサチューセッツ総合病院(MGH)は、1811年にボストンで創設された全米で3番目に古い病院です。世界で初めてエーテルを用いた全身麻酔によって手術が行なわれたことでも有名ですが、現在はハーバード大学医学部の代表的な関連病院として、ベッド数約900、年間入院患者数約4万7000人、年間外来患者数約150万人と、ニューイングランド地方では最も大きな病院です。『New England Journal of Medicine』でMGHの臨床病理カンファレンス(CPC)が毎週連載されているので、ご存知の方もいるかと思います。

マネジドケアの国、アメリカ
 さて、私はアメリカに来る前から、マネジドケアというものについて漠然と聞いてはいましたが、それが実際にどんなものであるかは全く想像も付きませんでした。ですから、医師としてMGHで働き始めた当初に最も不安だったのが、日本の流儀がどこまで許されるかということでした。

 アメリカの公的保険は、65歳以上の人のためのメディケアと低所得者のためのメディケイドの2種類だけで、それ以外は民間保険会社によってまかなわれています。以前は日本のように出来高払い制でしたが、医療費が高騰して通常の保険料では民間保険会社の支払いが難しくなってしまいました。そこで、考え出されたのがマネジドケアというシステムです。

 マネジドケアの根幹は、家庭医制度の徹底による専門医へのアクセス制限、疾病分類に基づいた定額支払い制、過剰医療のモニターにあります。

 保険加入者はそれぞれの家庭医を決めることを要求され、その家庭医からの紹介がないと専門医にかかることができません。これによりコストの高い専門医による診療が抑制されるわけです。

 また、疾患名とその重症度に応じて支払い額があらかじめ決められています。例えば急性虫垂炎で虫垂切除術が行なわれた場合、入院が何泊になろうが、どんな検査をしようが、支払い額には一定の上限があります。こうした仕組みの下では、医師が過剰な診療をしたり、入院を長引かせたりすると、それは病院の損失となります。当然、病院経営側は、医師の診療を厳しくモニターして医療行為をコントロールするだろうと考えられます。

実際、診療報酬はいくら支払われる?
 それでは、アメリカにおけるマネジドケアの現実とはどんなものなのでしょうか?

著者プロフィール

河合 達郎

マサチューセッツ総合病院移植外科/ハーバード大学医学部外科教授

1981 年に日本大学医学部を卒業後、外科と臓器不全治療そして免疫学が交錯する移植外科に惹かれ、腎移植と透析医療のパイオニアであった太田和夫教授が主宰する東京女子医科大学腎臓病総合医療センター外科に入局する。91年にマサチューセッツ総合病院(MGH)移植外科にリサーチフェローとして留学し、A. B. Cosimi、David Sachs 両教授の下で3年間、移植免疫の研究に従事。94年に帰国、96年に東京女子医大第3外科准教授。97年に移植臓器の免疫寛容誘導を臨床で実現するために再渡米。アメリカ医師免許取得後、MGHの臨床スタッフとなり、2002年から臨床腎移植での免疫寛容誘導のための治験を開始した。薬のいらない臓器移植(免疫寛容)を標準的な治療とすることをライフワークとしている。08年にハーバード大学准教授、12年にMGH移植外科A. B. Cosimi Endowed Chair、15年より現職。 趣味は柔道(4段)。

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