日経メディカルのロゴ画像

診療報酬の事業税非課税、危機一髪!
2011年度以降の増税にらみ本格的な議論へ

 個人の診療所で平均118万円、医療法人の病院で418万円、医療機関全体で1111億円あまり――。医療機関は危ないところで、こうした増税を免れることができそうだ。11月26日の政府税制調査会で、医師優遇税制の一種との批判がある「診療報酬に対する事業税の非課税措置」が、2010年度も存続することが事実上決まったからだ。

 25日の記者会見でその存続を訴えた日本医師会や、存続を求める要望書を鳩山由紀夫首相ら政府幹部に送った全国保険医団体連合会などの医療団体は、今ごろ胸をなでおろしているだろう。
 
税調が「抜本的見直し」を求める
 事業税は、都道府県が個人事業主や会社に課する地方税の一種。企業の場合、原則30%の法人税とともに、4.887~9.593%の税率で所得に対して課されている。個人開業医の場合の税率は5%。いずれも、一定の範囲で都道府県が税率を決めることができる。

 だが、個人立か医療法人かを問わず、診療報酬は事業税の対象外とされてきた。つまり、自由診療の割合が高い産婦人科などを除き、病院や診療所はほとんど事業税を支払う必要がなかったわけだ。医療法人については、自由診療収入にも軽減税率が適用されている。

 ところが今回、政府税制調査会は、2010年度の存続を要望した厚生労働省に対し、仮査定で「C」の評価を下した。「要望内容の抜本的見直しができなければ認められない」というものだ。軽減税率についても評価は「C」だった。

 これは医療団体に衝撃を与えた。日医常任理事の今村聡氏は、25日の会見で、「財務省が診療報酬を抑えようとする一方で、総務省が増税を図ろうとするのでは整合性が取れない。事業税を支払う必要のない自治体病院と民間病院との格差はますます拡大してしまう」と、非課税措置の見直しに強く反発した。

様変わりした税制改正の仕組み
 もっとも、事業税の非課税措置の見直しは、これまでにも度々、浮上しては消えたという経緯がある。

 自由民主党政権では、党の税制調査会が税制の決定権限を持っていたため、その有力な支持団体である日医は、税調幹部をはじめ党内の有力者に働きかけることで、見直しを防ぐことができたからだ。

 これに対し、民主党を中心とした連立政権では、財務大臣を会長とする政府税制調査会に、各省の副大臣らが出席して税制改正に関する要望を出し、審議を行う。業界団体が直接働きかけることはできない仕組みだ。「税制改正の仕組みが全く変わっている」(今村氏)ことで、日医はこれまで以上の危機感を持ったという。

 2010年度は存続の運びとなったが、むしろ勝負はこれからだ。これまでは一度見直しの議論を封じ込めれば、しばらくは大丈夫だった。ところが今回、政府税調は、診療報酬に対する事業税の取り扱いを、これから1年かけて議論していく方針を明らかにしている。医療の公益性・非営利性や、低額な診療報酬という“非課税措置の根拠”を中心に、医療法人制度や消費税の課税の仕組みにまで議論が広がる可能性がある。

 「もし、事業税の非課税措置が廃止されたら、(その影響は)診療報酬の改定どころではない」と、ある日医幹部は漏らす。この危機意識が、増税による医療機関の経営基盤の弱体化を防ぐかどうか――日医の手腕が問われることになるはずだ。

この記事を読んでいる人におすすめ