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事業仕分けが提起した論点と医療システム改革
削減する改革から組み立てる改革へ
松田学(預金保険機構金融再生部長)

2009/11/26

 このところ、「事業仕分け」が国民的な話題となり、官僚組織だけでなく日本の各界に様々なインパクトを与えているようだ。

 この民主党政権最大の目玉の一つに位置づけられている事業仕分けとは、これまで国民から見えないところで行われていた予算編成過程の一部を公開し、公開の場で外部の視点も入れて議論することで、これまでの予算編成のあり方を劇的に変える第一歩となることが期待されているものである。このプロセスを通じて、予算の節減だけでなく、従来の行政施策や独立行政法人・公益法人などの必要性にまで焦点が当たっていくことになり、政権の政策の柱である「行政刷新」を大きく進める原動力にもなるとされている。

 ただ、国の予算の各項目は日本のさまざまな分野の「社会システム」に有機的に組み込まれてきたものである。事業仕分けで行政刷新を実現しようとするのであれば、それは必然的に、単なる行政の無駄排除の論理だけでは手に負えない世界を相手にしなければならないことになる。

 現に、厚生労働省に関する事業仕分けについては、医療分野に詳しいプロフェッショナルたちからも、強い疑問の声があがっている。

 例えば、「感情論が優先し、社会的背景や医療経済・薬剤経済学的視点、産業論等に対する多面的な配慮が著しく欠落している」「盲目的に予算を削り込みたい財務省が民間委員の意見を誘導し、当事者である医療関係者等からの反証が一切認められないまま、素人集団による稚拙な議論が公開の場で行われて、典型的ポピュリズムによる政治的判断が下されている」「開業医と勤務医の収入格差平準化の財源を診療所の診療報酬引き下げで賄おうとしているが、それでは逆に診療所の崩壊を招き、その分だけ外来の患者が病院に向かい、勤務医はさらに大変になる」「医療制度は全体としてひとつのシステムなのであり、どこかに局所的に痛みを与えると、それが他にも波及し、かえって制度が歪みかねない」などといった声である。

 そもそも行政を本当に刷新するのであれば、各行政分野を組み込んだそれぞれの社会システムそのものの改革が不可欠であり、それを財務省の予算削減の論理だけで実現することには無理がある。

 事業仕分けとは、要するに、主計局がやっていることを公開でやるものに過ぎないと言われるが、そうであれば、事業仕分けは「行政刷新」に向けた一つのプロセスではあっても、解にはならない。また、今行われているような事業仕分けそれ自体が、従来の予算編成プロセスとは本質的に異質のものである。

 予算編成過程では、主計局から、その分野のプロである相手官庁からみれば理不尽なタマが投げられてくるのが常であり、それは予算を少しでも合理化したい彼らの役回りである。それに対して相手側からどんな「正論」が返ってくるかをみて、財政当局としてもなんとか担げる、これならば、という理屈が出てくるのを待つわけである。そのタマがプロの常識からみてきつければきついほど、相手側はそれを反駁する正論を真剣に組み立てることを迫られ、制度の根本にさかのぼった本質的な論点も出てくることになる。

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