日経メディカルのロゴ画像

冷静さを欠く混合診療論議に一言

2009/12/04

 今回は、混合診療新薬承認適応外使用の3つに通底する問題点について、お話したいと思います。

 まずは、混合診療です。漢方薬に関する事業仕分け騒動は、長妻昭厚生労働大臣の「漢方薬はそう簡単には保険から外せないだろう」というコメントで小康を得たようですが、予算の最終的なとりまとめは財務省の仕事です。漢方薬の保険収載を維持してほしいわれわれのような人間からすれば、現段階ではまだ、一安心とはいえません。

 漢方薬の保険適応について論じた前回はあえて触れませんでしたが(2009.12.1「漢方薬・ビタミン剤が保険医療から消える?―あまりにも無知な事業仕分け」)、仮に漢方薬が保険収載から外され、自費併用が認められる特例措置が取られないとしたら、保険収載されている他剤と併用して処方すると、混合診療の禁を犯したとして保険医取消しの処分を受けかねません。

 話は変わりますが、「漢方薬はどこまで効くのか」と聞かれると、返答には非常に厳しいところがあります。先日のブログでお話した青年医師のように著効例を経験した医師は少なくないと思いますが、漢方治療は随証診断といって、患者の個性や類型により多数の生薬をミックスした漢方薬を合わせるからこそ効くという特徴を持っています。ですから、西洋医学的な無作為化比較試験(RCT = Randomized Controlled Trial)のような手法になかなかなじまず、効果を検証しにくい面があります。

 よく「薬が効く」とか、「副作用」といいますが、それは病態との相関であって、絶対的なものではありません。例えば、一般社会で麻薬として禁じられているモルヒネは、末期患者にとっては非常に大切な薬剤です。「一般には御法度だから」と使用を禁止してしまえば、人権侵害に当たりかねません。

 抗癌剤など起死回生を目指して使われる強力な薬剤も同様で、「絶対に安全な薬とは言い切れないので使わせない」となれば、やはり場合によっては人権侵害に当たるのではないでしょうか。患者にとっては、他に選択肢がないということもあります。有用性と副作用を勘案し、医師が十分にインフォームド・コンセントを行うことを大前提に、患者により広い選択肢を与えられるよう制度の整備を行うべきというのが、私の基本的な考えです。

 また、混合診療や新薬承認は保険外診療に固有の問題と思われがちですが、保険内診療でも適応外使用の問題として出てきます。保険診療が90%以上の日本では、新薬承認の問題は混合診療や適応外使用の問題に直結しており、それはすなわち、行政による医療行為の統制のあり方と連動しています。

 先日の、MRICメールマガジンでは、東大医科研医科学研究所准教授の上昌広先生が「現場からの医療改革推進協議会シンポジウムを終えて 患者と医療関係者の協同作業を目指して」と題したリポートをお書きになっています。

 そこには厚生労働省の技官として、医薬品医療機器総合機構(PMDA)で実務に当たった研究者たちが、新薬承認や適応外使用に対応できていない行政の現状にいかに歯がゆい思いをしているか、また、新薬承認や適応外使用を求めて活動している患者たちが、理不尽な現況にどれだけ辛く悔しい思いをしているかが報告されています。行政内部に身を置いた経験のある人々や患者団体のリーダーには、強い不満というより、深い悲嘆が流れています。

 念のため申し上げますが、私は無制限な混合診療推進派ではありません。新薬の承認や適応外処方の導入は慎重に行うべきで、“解禁”された医療を実施する上では、インフォームド・コンセントが重要だと考えています。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

この記事を読んでいる人におすすめ