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偏ったデータで議論された「事業仕分け」に不安つのる
整形外科、眼科、皮膚科の開業医は稼ぎすぎ?
多田智裕(武蔵浦和メディカルセンターただともひろ胃腸科肛門科)

2009/12/04

 ※この記事は世界を知り、日本を知るグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)からの転載です。

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 行政刷新会議の「事業仕分け」では、厚労省の診療報酬(概算要求額は9兆3612億円)も対象になり、議論が行なわれました。

 「デフレ傾向を反映させ、医療費全体の上積みを再検討すべき」という医療費削減案は、さすがに半分の賛成しか得られませんでした。その一方で、「収入の高い診療科の報酬の引き下げ」と「開業医と勤務医の収入格差を平準化すること」は賛成多数で「必要」と判定されました。

 偏ったデータを根拠にして、「楽して儲けていそうなところを削れ!」という結論だけが出されてしまった──。個人的にはそう思えてなりません。本当に困っているところへ予算を配分するという方策は、全く検討されなかったのです。まるで「自民党時代の財政制度等審議会のデジャブか?」と思わせる結果でした。

都合のいいように取り出された診療所の収益データ
 ここ10年で医師数が増加しているのは、精神科(20%)、皮膚科と整形外科(それぞれ15%)、眼科(13%)です。これらの科目はリスクが少なく、勤務時間が短いと思われているのが原因のようです。一方で、産婦人科医師は11%減少、外科医師は8%減少しています。

 科目によって、収益も違います。会議で資料として提示された「診療科別の損益差額(個人診療所の事業収益)」によれば、年額で整形外科が4200万円、眼科が3100万円、皮膚科が2800万、産婦人科が2500万円、精神科が2000万円、外科が1900万円でした(事業所の収益なので、個人の稼ぎではありません、念のため)。これだけ見ると、整形外科、眼科、皮膚科は稼ぎすぎである、報酬を下げるべきだと、思うことでしょう。

 しかし、この収益は、休日がないため収入が一番多くなる6月の月収入を12倍して計算されています。さらには、医療法人を含めた統計ではありません。医療法人を含めると、年間の損益差額は整形外科が2880万円、眼科が2580万円、皮膚科が2120万円、産婦人科が2700万円、外科が1460万円、精神科が1200万円まで低下します。

 統計から、収益が大きくなる部分だけを抜き出して、都合の良いように結論を導き出して資料を作ったというと言い過ぎでしょうか?

 産婦人科医は年収3000万円で募集しても応募がないのはよくあることです。つまり、報酬そのものよりも、過重労働問題や訴訟問題の方が、診療科目ごとの医師の増減に大きな影響を与えているという気がします。

 また、事業仕分けは無駄を削減するのが主な目的なのでしょうが、どこを削るかだけが議論され、「疲弊している勤務医に、どうすれば報酬を効率よく配分できるのか」といった議論は見られなかったのが気になるところです。

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