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日米仏で比べてみた医師・患者関係

2009/12/11
佐野 潔

 診療に当たる医師は、目の前の症状だけでなく、その患者の背景にある家庭・地域・国籍・文化・宗教などに注意を払う必要があります。例えば、同じ風邪であっても、20歳のマラソン選手と、50歳の海外単身赴任中のビジネスマンで喫煙者とでは、鑑別診断もアドバイスも異なってきます。また、患者がインド人かスウェーデン人か、女性か男性かでも違った生活指導が必要になります。既往歴、家族歴、職業歴、喫煙・飲酒歴など患者の背景はそれぞれ違いますから、すべて教科書通りに済ますことはできません。

 さらに、患者の背景をもう少し深く掘り下げて診療を行なうと、医師自身も、もっと毎日が面白くなるだけでなく、患者から学ぶことも多く、人間的に成長できるでしょう。

 私は日本、アメリカ、フランスで家庭医として働いてきましたが、それぞれの国で、患者に対して異なるアプローチが必要でした。そして、それは医療に関する知識量の差と、それによって生まれる受診態度の違いによるものであることに気付きました。

 一般的に、日本人は、加齢とともに受診経験が増えても、医療情報にアクセスしやすくなっても、医療に関する知識はなかなか増えないように思います。これは、患者に対して医療教育・指導が十分でないことが原因ではないでしょうか。

 アメリカでは、医師と患者がほぼ対等な立場で医療の話をするといわれています。医師はあくまでも“アドバイザー”であり、意見を提示することで患者の意思決定を援助するのが本来の仕事です。対等な立場なので、医師と患者のコミュニケーションがオープンかつリラックスしたものになります。

 アメリカでは、医師は様々な説明資料を用意して、ときには患者を教育しながら、医療行為を決定していきます。これがインフォームドコンセントです。インフォームドコンセントによって、医師と患者の信頼関係が構築され、よりよい医療が行ないやすくなるメリットがあります。そして、医師の知識・技術レベルの標準化、すなわち医療の標準化につながっていくのです。

著者プロフィール

佐野 潔

パリ・アメリカン病院

1978年大学卒業後、横須賀米海軍病院、大阪八尾徳洲会病院を経て、83年に渡米。ミネソタ大学医学部地域家庭医療科にてレジデンシーを修了後、ミネソタの農村で15年間、開業医として家庭医療を提供。その後99年よりミシガン大学にファカルティーとして移り、日本人診療、学生・研修医の教育に従事する。2006年よりパリのアメリカン病院にて再び開業医として日本人・米国人を対象に家庭医療を提供している。

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