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特集●意外と知られていない皮膚疾患
ある日突然出現し、繰り返す手指の痛みと血腫
(2010.1.26改訂)

Achenbachの一例。明らかな誘因がないにもかかわらず、突然、手指や手掌(まれに足趾・足底)などに痛みや痺れ、つっぱりといった異常感覚が生じ、同部位に血腫が形成される(写真提供:木藤正人氏)。

 「突然ズキッと激しい痛みがあった。気付いたら指が紫色になっていたんです」。熊本市立熊本市民病院皮膚科部長の木藤正人氏は、以前から、患者からのこうした訴えを度々受けていた(症例参照)。だが、血液検査を行っても異常がなく原因が分からない。「知らないうちに、どこかで打ったりしたんじゃないですか」などと説明していた。
 
 その後、木藤氏は、海外の論文でこうした病態に合致する疾患を発見した。その名はAchenbach(アッヘンバッハ)症候群。国内での報告はなかったため、2000年ごろから自ら症例報告を行ってきた[1]

 Achenbach症候群は、外傷や血液凝固能異常などの明らかな誘因がないにもかかわらず、突然、手指や手掌(まれに足趾・足底)などに痛みや痺れ、つっぱりといった異常感覚が生じ、同部位に血腫が形成される疾患。その後、浸潤性の皮下出血や紫斑を残し、数日から数週間持続した後に自然消失する。こうした出血発作は繰り返され、短時間に頻回の人もいれば、数年ごとの人もいる。好発部位は、示指、中指。中でも中節部と基節部に出現することが多い。50歳代以降の女性に多く認められる。

 これは、1955年にAchenbachにより提唱された疾患概念だ[2] 。海外では、Achenbachが報告した以降に、同一病態と考えられる症例が、「finger apoplexy」「acute blue fingers」「the non-ischemic blue finger」などと異なる名称で報告されてきたものの、現在はAchenbach症候群の名称が一般的になっている。

 原因としては、加齢に伴う局所の血管の脆弱性が疑われているが、はっきりとはしていない。本人が気付かないくらいのちょっとした刺激などを契機に微小血管が壊れ、血腫を作るのではないかと考えられている。血液検査などを行っても異常所見は見られず、特別な治療を行わずとも自然消退する。ただし、「同様の症状を反復することが多いため、『内科的異常があるのではないか』『脳出血などを起こすのではないか』と、患者の不安は強いようだ」と木藤氏は話す。

 痛みなどの異常感覚とともに出血を来す疾患を考えた場合、鑑別すべき疾患としては、psychogenic purpra、Davis紫斑などがある。他の紫斑病と鑑別するには、血小板数、血液凝固機能などの一般的な検査が必要だ。

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