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自治体病院の職員定数の意味するもの
伊関友伸(城西大経営学部准教授)

2010/02/01

いせき ともとし氏○1987年埼玉県入庁。県立病院課、社会福祉課などを経て、2004年より現職。夕張市病院経営アドバイザーなど、数多くの国・地方自治体の委員等を務める。著書に、『地域医療 再生への処方箋』(ぎょうせい)、『まちの病院がなくなる!?』(時事通信社)など。

地方自治体の「常識」は、医療の世界の「非常識」
 毎年、この時期になると、自治体病院と病院を設置する自治体の人事担当の間で、時に厳しいやりとりが行われるのが病院の職員定数の問題である。行政には、職員定数の枠が存在し、医療スタッフを増やすには、職員定数条例を改正することが必要であるが、その変更は容易なことではない。

 病院の場合、医療の高度・専門化により数多くの医療スタッフを必要とする。職員を雇用すれば、診療報酬の加算などもあり、収益が上がり、収益でさらなる投資が可能になる。しかし、自治体の人事担当者はこのことを理解せず、「職員数は少なければ少ないほど良い」という地方自治体の「常識」(医療の世界では「非常識」)にとらわれている。

収益が上がっても定数増を認めない人事担当者
 例えば、2006年に7対1看護基準が導入されたとき、多くの自治体病院が看護師定数の変更がなかなかできず、他の経営形態の病院に比べ、看護師の雇用に遅れを取ってしまったのは自治体病院関係者では有名な話である。

 実際の例でも、現在、沖縄県立6病院では、常勤の看護師定数が抑制されていることから十分な看護体制が組めず、県立中部病院で52床、県立南部医療センンターこども医療センターで59床の病床の休床に追い込まれている。看護師の不足分を臨任職員や嘱託職員で補おうとしているが、身分が不安定で待遇も悪く、なかなかなり手がいない状況である。沖縄県立6病院の病院現場は、医療の質の向上と収益改善の観点から、職員定数を変更し、適正な医療スタッフの数が配置されることが必要と考えているが、定数の見直しは難航している。

 また、私が関わったある県の自治体病院でも、病院現場が理学療法士1人の雇用をすると1500万円の収益が上がるという試算をしても、本庁の人事担当課は職員を採用することを認めなかった。

過剰な人員配置の抑制は、かえって収益を悪化させ、地域医療を崩壊させる
 病院は施設産業であり、人件費以外の固定費も高い。看護師や医療技術者を雇用することで診療報酬の医療加算を取り、その上で、職員にやる気を持って損益分岐点以上に稼いでもらうことも病院収支の改善の大きな要因となる。そのための職員の雇用増は「必要」なことであり、「悪いこと」ではない。

 過剰な人員配置の抑制は、結果として、医師や看護師の仕事の増大を生み、疲弊による大量退職を招きかねない。収益改善のために人を抑制することが、かえって収益を悪化させ、地域医療を崩壊させかねない危険性を持つことを地方自治体の人事担当者は理解していない。

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